バレンタイン当日。

芽美と、一緒に渡そうって約束した日。

でも、この日ばかりは、自分のドジを恨んだ・・・。


「さっ、行こう、卯月!」

「う、うん・・・。」

この前の不安はどこへやら。

芽美は晴々とした表情で、私の手を引く。

放課後、言ったとおり、捺騎君と恵太君が校門のところに立っていた。

「やーっと来た!遅っせーよ、お前ら。」

「ごめんごめん。いいからさ、公園に行こ!」

芽美は公園で渡すつもりみたいだけど・・・。

私、どうしよっかな・・・。


公園に着いてすぐ、入り口の近くのブランコにみんなで腰かける。

冬だからか、4時半くらいなのにもう薄暗い。

キィキィ、ブランコがきしむ音だけが公園に響きわたる。

「・・・恵太。ちょっと、いい?」

意を決したように、芽美が立ち上がる。

わ。芽美、もう渡すんだ。

私も・・・渡した方が、いいのかな。

うん、約束だし、捺騎君のことは素直に好きだし。

と思って、鞄の中を見たら。

「ああ~!」

ど、どうしよう!

「どうしたの?卯月。」

「チョコ、忘れた!」

捺騎君がぽかんとする。

「・・・もしかして、恵太にあげるチョコ?」

「へ?」

「・・・芽美も、あげてるみたいだし。」

ちらっ。

捺騎君の視線の先には、2つのシルエット。

でも、でも、今はそれどころじゃないよ~。

「・・・違うの。」

「え?」

「・・・捺騎君にあげるつもりだったの。でも、作ったチョコ、家に忘れて来ちゃって・・・。」

あーあ、本当、私ってドジ。

私がうつむいてると、捺騎君が急に笑いはじめた。

?どうしたの・・・?

「あ、あの・・・。」

「あははっ!ごめんごめん。卯月って、本当にドジだなって。小学校から思ってたけど。」

う・・・そのとおりです・・・。

「でも、良かった。ちょっとほっとした。」

「え?何が?」

捺騎君の急な言葉に、私は疑問に思って聞き返す。

「卯月、恵太にチョコあげるのかと思って、ちょっとあせった。何でだろうね、自分でもよく分かんないけど・・・。卯月から、チョコもらいたい。」

・・・昔から、そう。

捺騎君のこういう時の笑顔って、ピュアで可愛くて、優しくて・・・。

でも、私の気持ちは少しずつ変わってきてる。

前よりも、ドキドキする。

もしかして、これが恋、っていうの―――――・・・?

「ご、ごめんね。私が忘れたせいで・・・。」

「ううん、いいよ。くれようとしてくれただけでも嬉しい。」

「明日、持って行くね。」

「・・・うん、約束。」

捺騎君が小指を立てたから、私も小指で握り返した。

・・・捺騎君、絶対に気づいてない。

私ですら、やっと気づいたんだもん。



私、捺騎君に恋してる―――――・・・。



やっと、そう気づいた、高校2年生の冬でした―――――・・・。