「あ、卯月ちゃん、あの子。」

休み時間、にゅうちゃんと話していると、私のクラスに芽美が来た。

?何か、暗いけど・・・。

「芽美、どうしたの?」

私はすぐに、芽美に駆け寄る。

すると一瞬にして、芽美の顔は歪んでいき・・・。

「わっ!」

とうとう、泣き出してしまった。

え・・・?

ど、どうしたの?

「芽美、だいじょぶ?何かあったの?」

「ひっ・・・く・・・。卯月・・・。私・・・もう誰も信じられない・・・。」

え?

嫌な予感が、胸をよぎる。

「あ、あの・・・芽美、何があったの?」

私が問いかけると、芽美は一気にまくしたてた。

「恵太って・・・もともと、イジメするようなやつだったんだね。本当、信じられない。あんなやつ、今までよく仲良く出来たと思うよ。」

恵太君の・・・。

もしかして、中学時代の過去、バレちゃったの?

「で、でも、今はほら、いじめなんてしてないでしょ?恵太君も改心したんだよ、きっと。」

私、必死に言う。

これ以上、今の関係を壊したくない・・・。

でも、私のそんな儚い願いは、すぐに打ち砕かれた。

「過去にはそういうことしてたってことだよね?やっぱり私、そんな人と仲良く出来ない。」

「そんな・・・。」

どうしよう、私、今この状況、どうしたらいいのか分からなくなってる。

恵太君とまで、関係が壊れちゃうの?

みんな、みんな・・・。

「ねえ、卯月は私の味方してくれるよね?卯月だって、そんな人は嫌でしょ?」

確かに、恵太君が今もいじめをしていたなら私だって恵太君を軽蔑すると思う。

でも、今はそんなことしてないのが事実じゃない。

どうして、芽美、分かってくれないの?

私がずっと無言でいると、芽美の堪忍袋の緒が切れた。

「卯月まで、あんなやつの味方するんだ!捺騎の時もそうだったよね。親友の私じゃなく、捺騎と話したい感じだったし!――――ああ、そっか。私なんか、もとから親友じゃないって?そうだよね。私、ただうざいだけだったもんね!」

「違う、違うよ、芽美。」

私、心から芽美のこと親友だと思ってる。

どうして、それが伝わらないの?

どうして、何もうまくいかないの?

「卯月、そんな人だったんだ。最低!」

そう言い残して、芽美は身を翻して駆けていってしまった。


―――――もう、嫌だ。

もう限界。

セリアがいなくなったことで、みんなの心はばらばらになってしまったんだ。

私、もう頑張れないよ。

もう戻らないと知っていて、これ以上――――・・・。


次の日から、私は学校を休み始めた。

お母さんとお父さんは、前も言ったとおりのんびりしてる人だから、すぐに承諾してくれた。

「卯月の将来は、卯月が決めることだからね。」

お母さんが言ってくれた言葉も――――耳に入らなかった。

私がいけなかったの?

セリアと仲良くならなければよかったの?

捺騎君を裏切ればよかったの?

恵太君を一方的に責めて、芽美の味方をしていればよかったの?

後悔が、一気に押し寄せてくる。

でも私、みんなと仲良くしたいだけだった・・・。

ただ、みんなが仲良ければ・・・それで・・・。

「うっ・・・わあああっ!」

涙が、次から次へとこぼれ落ちて、止まらなくなる。

私、2年前までは、あの関係がずっと続くと思ってた。

たとえセリアがいなくなっても、離れてても、関係はずっと続くと思ってた。

それなのに、どうして・・・こんなことになっちゃったの?

あんなに信じあってたのに。

一生、親友だと思ってたのに・・・。

私の二重人格がいけなかったの?

捺騎君が、二重人格の方の私も好きって言ってくれたことが、とても遠い日のことのように思えるよ。

その時だった。

コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「?誰・・・?」

「卯月?お母さんよ、開けて。」

ガチャリ。閉めていたドアを開ける。

「卯月、学校で何かあった?」

お母さんが、優しい声で問いかけてきた。

その声を聞いたら、私・・・。

「わっ!」

また、涙が溢れてきた。

「どうしよう、私、もう一度過去をやり直したい・・・。」

楽しく、無邪気に笑い合ってたあの日々に。

戻りたいよ・・・。

「・・・ねえ、卯月。」

お母さんが、静かに話し始める。

「お母さんね、実は、高校生の時、とても大切な人を失ったの。」

「大切な人?」

「そう・・・。心から大好きだった人。でもね、その人一度、外国に留学したのね。あの時は、ショックだった・・・。」

お母さんでも、そんなことがあったんだ・・・。

何だか、意外。

「でも、私は諦められずに、アメリカまでその人を追った。そしたら、出会えて・・・いきなり告白された。」

え!?

「あっちも、もう二度と後悔はしたくないって言ってたの。私ももちろんそうだったから、OKした。それが・・・あなたの父親よ。」

そ・・・んな・・・。

お父さんとお母さんの間には、そんなことがあったんだね。

「ねえ、卯月。やってしまった過去は変えられない。でも、未来は自分の手で変えていける。だから卯月、諦めないで。卯月が変えるんだよ、未来を。」

お母さん――――・・・。

ありがとう、お母さん。

お母さんの言うとおりだよね。

私、過去を変える力を持ってなくても、未来を変える力は持ってる。

私が、ほんのちょっとの勇気を出せば・・・戻れるかもしれない。