「本田卯月です。よろしくお願いします。」

ざあっ。

開いた教室の窓から、桜の花びらが入ってくる。

今日から、私と芽美は高校1年生。

捺騎君とは別のクラスだけど、芽美とはまた一緒なんだ。

「卯月、学校の中を捺騎に案内してもらおうよ。」

クラスのオリエンテーションが終わってから、芽美が提案する。

ああ、いいかも。

この学校広すぎて、いまいちよく分からないんだよね。

「うん、頼みに行こっか。」

同じ学校に、捺騎君がいる。

そう思うだけで、すっごく胸が弾むのは、何でだろ?

「捺騎君。」

捺騎君のクラスに辿り着いてから、捺騎君を呼ぶ。

「あっ、あの時のドジっ子ちゃんじゃーん♪本当に来たんだ。」

あ、恵太君だ。

捺騎君と同じクラスだったんだね。

「芽美も。いや~、楽しい高校生活を送れそうだよ。」

恵太君、いつの間に”芽美”って呼んでたんだろ。

芽美、まんざらでもなさそうだけど。

「セリアは・・・やっぱり、来なかったんだね。」

捺騎君が、恵太君の後ろから出てきて言う。

「うん・・・芹田高校に受かったから。」

あれから、もう半月がたつ。

たったそれだけだけど、今までは毎日会えてたから、心にぽっかり穴があいた感じ。

セリア、元気にしてるかな・・・。

「そうだ、捺騎、学校案内してほしいんだけど。」

芽美が、思いだしたように言う。

その言葉に恵太君は、

「オレにも頼んでよ!」

って文句を言ってたけど・・・。

「いいよ。行こっか。」

捺騎君が笑顔で言ったので、私も笑顔で頷き返した。


「こっちがA棟。ここがB棟で、そっちがC棟、D棟・・・。」

「やっぱり、広いんだねぇ。」

すごく大きくて、何だか感動。

「でも僕たちも、最初からこんなに広かったわけじゃないよ。中学のうちは男子校だから、行動範囲が限られてたし。だから、今ちょっと驚いてる。」

捺騎君が笑いながら言う。

そっか、やっぱり、ずっとここで生活してたわけじゃないんだ・・・。

「もちろん、高校生が中学生がいるA、B棟に行くことも許されてないけど・・・。それでもやっぱり、高校生の方が活動範囲が広いから、自由に行き来出来るよ。」

捺騎君が嬉しそうな顔をする。

それを見て恵太君が、

「オレは嫌だったんだけどな、高校生になるの。広くなると、移動が面倒臭くなる。」

って言ったから、何だか捺騎君、落ち込んじゃったよ・・・?

芽美は苦笑しながら、恵太君をどついた。


次の日、1時間目。

しょっぱなから体育で、ちょっと憂鬱。

だって私、すぐコケるんだもん・・・。

「今日から早速体育で辛いかもしれないが、頑張ろう!」

体育の担当の先生は、女の先生なのにちょっと男らしい話し方をする人。

何だか、気さくな感じ。

「ねえ、本田さん。」

「ほえ?」

声のする方を向くと、同じクラスの女子――――笹川美咲(ささかわみさき)ちゃんだった。

「あのさ、もとからこの学校にいた、藤田捺騎って知ってるよね?」

「うん、知ってる。」

「あの人と、仲いいの?」

え?

そりゃあ、仲は良い・・・方だと思うけど。

「でも、どうして?」

「ん?いや、本田さん、早速この学校の特別生徒と仲良くなってるから、すごいなって思ってさ。」

とくべつ・・・せいと?

何、それ?

「知らない?もとからこの学校にいた男子は特別生徒っていって、位が高いの。偉そうなやつらばっかりだからさ、あまり関わりたくないんだよね。でも、どんなに嫌がったって、結局私たちは下僕。逆らえないの。」

え?

そんなこと・・・捺騎君、言ってなかったけど。

それに、恵太君も普通だったし。

「別に、話してみれば普通の人もいるよ。捺騎君とは、小学校が一緒だったんだけど。」

どうして・・・何で、そんな決まりがあるんだろ?

みんな人間は、平等なはずなのに。

っていうか、芽美と私はそのこと知らなかったから、平気で話しちゃったけど・・・。

「あ、ごめんね、授業中にこんな話。私、笹川美咲。よろしくね。」

「あ、私は本田卯月。よろしく。」

やった、高校で1番目のお友達だ!

良かった、良い人そうで。

「私、長尾中出身なんだけど、今年1人なんだよね。不安だった~。」

「そうなの?結構、堂々として見えたけど・・・。」

美咲ちゃんは美人で、入学式の時も一際目立ってた。

男子なんか、美咲ちゃんに釘付け。先生の話、聞いてたのかな・・・。

「でも、本田さんの話聞くかぎりじゃ、そんな決まり噂にすぎないって思えてきた。」

「あ、卯月でいいよ。私も、美咲ちゃんって呼ぶから。」

「そう?じゃ、卯月。今日、その捺騎君とやらに聞いてきてよ。そんな決まり、あるのかって。」

「うん、分かった。」

でも本当だったら、捺騎君はともかくどうして恵太君は仲良くしてくれたんだろ?

不思議な謎だな・・・。