合格発表当日。
私と芽美は、合格者が貼り出された掲示板の前に立っていた。
がやがや、周りが騒がしい。
落ちてたら、どうしよう・・・。
もちろん、やれるだけのことはやった。
でも・・・。
私がうつむいていると、芽美が私の手を強く握った。
冬なのに、温かい・・・そんな芽美の手は、大好き。
「大丈夫だよ。卯月、捺騎と同じ高校行きたいって頑張ってたじゃない。絶対大丈夫。ね?」
私、こくんと頷く。
そうだよ、大丈夫。
卯月、何を怖がっているの?
私は、思い切って掲示板を見上げる。
ドキン・・・。胸の鼓動が高まる。
平気、大丈夫、絶対・・・。
「きゃーっ、あった!」
横で芽美が飛び跳ねる。
芽美、受かったんだ・・・。
じゃあ後は、私が受かれば・・・。
「・・・あった。」
私、受験票の番号を何度も見る。
でも確かに、私の番号はあった・・・。
「卯月、あったの?やったー!」
芽美が更に飛び跳ねる。
信じられない・・・。
私、受かったんだ。
これから、捺騎君と同じ学校に通えるんだ―――――・・・。
「おめでとうございます、卯月。」
「うん、セリアもおめでとう!芹田高校に受かるなんて、すごいね。」
セリアも無事、第一志望の県立芹田高校に合格したんだ。
「良かった、セリアが笑ってるとこ見れて。セリア、あんなに頑張ってきたんだもんね。」
?どうしたんだろ?
セリアが、少し暗い。
「どうしたの、セリア?」
「あ、いえ。何だか、これでもう卯月たちとお別れなんて。信じられないなあと思って。」
え?
ふいに、体の中を冷たいものがよぎる。
そんなこと、考えなかった。
セリアとは、ずっと一緒にいられると思ってた――――・・・。
「・・・そっか、そうだよね。別の高校に行くんだもんね・・・。」
どうして、そんなことも考えなかったんだろう。
まだ私たちは、こんなにも小さな子供で・・・。
「平気ですよ。1ヵ月に一回くらいは・・・休み、会えると思います。」
1ヵ月に一回?
そんなの、嫌だよ。
でも、芹田高校は入ってからも大変なんだよね。
セリアは最初から、それを覚悟で受けたんだ―――――・・・。
「・・・あの、卯月。」
「何?」
「ちょっと、屋上行きませんか?」
屋上に着くと、震え上がるほど寒かった。
どうしてセリア、こんなとこ・・・。
「卯月、覚えてますか?初めて一緒にお弁当食べた時のこと。」
「あ、覚えてるよ。確かあの時は、セリアがあまり食べないねって話して・・・。」
そう、転校してきて間もなかったセリアは、色白で少食、いつも敬語で、クラスではちょっと浮いていた。
それでもセリアは何を言う訳でもなく、ただ淡々と一人で行動していたんだ。
それで、私、仲良くなってみたいなぁって思って・・・。
「そういえばその後、ここでかくれんぼした。セリア、強かったよね。」
「卯月だってなかなかでした。背丈の割に、隠れるとこ小さいんですよ。」
それ、その時も言われたな。
芽美が「誰も見つかんないよ!」って言って、怒って・・・。
「で、帰りにかくれんぼ優勝者としてセリアにアイスおごったよね。」
「はい。私、別にいいって言ったんですけど。」
芽美が、「賭けは賭けだから。」って言って、半ば無理矢理おごったんだ。
あの時は、いつだって楽しかった。
別れなんて考えていない、ただの子供で・・・。
・・・どうしよう。
私、たった半年なのに、セリアとの思い出がたくさん残ってる。
捺騎君とセリアがイトコだって知った、あの衝撃的なカラオケ。
あの時セリア、すごく暑そうな格好してて・・・。
芽美が、突っ込んでたっけ。
鯉の話とか、カレーの話もしたな。
初めて、セリアの涙を見た日。
芽美の家にお見舞いに行ったら、セリアの意外な過去が明らかになったんだよね。
そして、勉強。
私、セリアがいなかったら、河浦高校なんて受かってなかったと思う。
――――本当に、感謝してる。
そして、笑い合ったあの日々―――――。
きっと、もう二度と戻ることはない。
今までのように、会えなくなる。
私、そのことが悲しくて、ふいに瞳から涙がこぼれ落ちる。
「セリア・・・離れたくなんかない・・・。私、セリアに出会えて嬉しかったのに・・・っ。」
「卯月・・・。」
セリアは、私の手をぎゅっと握って、何やら指でなぞり始めた。
?
「何、これ・・・?」
「おまじない。これからも、ずっと繋がっていられますようにって。」
にこりと、いつもの優しい笑顔で言う。
ずっと、繋がっていられますように――――・・・。
そうだよね、二度と会えないわけじゃない。
私とセリアは、会おうと思えばいつだって会える。
心の中から消えないかぎり、いつまでも繋がってる。
「辛い過去があるから、人は優しく、強くなれる。信じあえる心があれば、人はどこまでも繋がっている。」
ふいに、セリアが言う。
「これ、私が好きな言葉なんです。この言葉があったから、親友がいなくなった時にも立ち直れた。・・・この言葉を、卯月と芽美に送ります。――――Dear my best friends。」
最初で最後に聞いたセリアの英語は、とてもきれいだった。
「私の――――親友へ。」
セリアの言葉は、私の胸にどこまでも響いて―――――。
―――――翌月、私たちは中学校を卒業した。
それぞれの胸に、それぞれの思いとあの言葉を秘めながら――――・・・。
そして、春。
運命の季節が始まる――――――。