カラオケで過ごし始めて、2時間経った頃。

芽美と雅君は、セリアに何か言われて部屋を出ていった。

取り残された私と捺騎君は、そんな芽美たちを不思議に思って・・・。

「どうしたんだろうね、芽美たち。」

「セリアが何か言ってたよね。僕、聞いてこよっか?」

捺騎君がそう言って立ち上がったから、私はそれを制した。

何か、わざわざ行ってもらうのも悪いしね。

「平気だよ~。とりあえず歌おっ♪」

「・・・でも僕、気になる。」

捺騎君が、ちょっといじけた顔になって言う。

小学校の時から変わってないな、そういうとこ。

「じゃあ、私ジュース取りにいくついでに見てくるよ。ここで待っててもらえる?」

「うん、分かった。」

捺騎君が、素直にこくんと頷いた。


「・・・だから。」

あ、いたいた。

何か話し合ってるみたいだけど・・・。

何の話し合いだろ?

「捺騎は天然だし、卯月も天然だし。どうしたらいいんですかね、ああいう場合。」

「もどかしいけど、見守っておくのが一番じゃないか?」

雅君が言う。

えっと・・・何だろ?

言ってること、全然分かんないや。

「でもさ~、同窓会からでしょ?もう半年経つよ。いい加減気づけって感じ。」

「次の段階にいけないからな~、あの2人。」

もしかして、あの2人って私と捺騎君のことかな?

同窓会・・・?何かあったっけ。

「でもまさか、びっくりだよ。あの卯月が、捺騎が好きなんてさ。オレ、女子の事情は分かんないからなぁ。セリアと芽美は、さすがだよ。」

・・・え?

私が、捺騎君を好き?

って、そりゃあそうだよ。

だって、捺騎君は友達だもん、大好きに決まってる。

「でも、本人気づいてないよ。天然同士だからなぁ、しょうがないっちゃしょうがないけど。」

「・・・さっき、卯月に恋の病って言ったら、魚の方の鯉の病って言われました。」

「ぎゃはは、さっすが卯月!」

え?魚の鯉じゃなかったの?

いろんな思いが、頭の中をぐるんぐるん駆け巡る。

どうしよう、何が起こっているんだろう・・・。

私は、捺騎君が好き。

それは、事実だよ。

でも、今までの好きとはちょっと違って・・・。

これって、何て言うんだろ・・・。

私、その場にいられなくなって、足早にその場を去った。


「あ、卯月、お帰りっ!どうだった?」

捺騎君が、くったくのない笑顔で問いかけてくる。

でも・・・こんな個人的なこと、言えないよね。

捺騎君を、困らせちゃうもの。

「ごめんねっ、見つかりそうになって聞けなかったの、えへへっ。」

私が答えると、捺騎君は私をじぃっと見つめて、こう言った。

「卯月、嘘ついてる。」

―――――!

どっ、どうしてバレたの?

「どうしてって顔してる。」

捺騎君が笑う。

「卯月、知ってた?卯月って嘘ついた時、左手で右手の指をいじるのが癖なんだよ。」

手元を見ると、本当にそうだった。

やだ、私、自分でも気づいてなかった・・・。

「で、どうしたの?・・・嘘つく理由でもあった?」

「ほ、本当に何でもないから。気にしないで。」

「気にするよ、何があったのって、心配じゃん。」

捺騎君、本気で心配してくれてる・・・。

だから、余計に怖いの。

その優しさが、余計に・・・。

「・・・何でも、ないよ・・・。」

「ねえ、教えてよ。力になれるんだったら・・・。」

「何でもないってば!うるさいなっ!」

私は、部屋を飛び出して行った。

・・・どうしよう。

私、意識があった。

いつもの二重人格だったら、普段のドジな私は二重人格の時やったことを覚えてない。

でも今回は、はっきりと覚えてる。

捺騎君に吐き出してしまった言葉、最悪な態度。

そして何より、捺騎君のあのショックそうな顔――――・・・。

鮮明に覚えてる。

私、今、二重人格でもないのに、怖いこと言っちゃった。

どうしてだろ?

何で―――――何もかもが上手くいかないの?

今まで出来てたことが、出来なくなっちゃったの?

苦しいよ。

悲しいよ。

私、自分で自分がコントロール出来なくなっちゃってる――――・・・。