結局、すっきりしないまま夏休みを迎えた。

私と芽美は、また捺騎君たちと集まろうって話になって、今回はカラオケに行くんだ。

セリアも暇だっていうから、セリアも連れて行こうって芽美と言って、引き連れてきた。

「暑い~。」

「本当。セリア、そんな格好で暑くないの?」

セリアが着てる服は、分厚い生地の重ね着。

半袖だけど、見てるとこっちまで暑くなってくるよ~。

「全然平気です。芽美こそ、寒くないんですか?」

「この真夏日に何を言う!」

芽美が、ぎゃあぎゃあわめく。

でも、本当に暑い・・・。

早く、カラオケ店に着かないかな・・・。

「あれ、そういえば卯月、ケータイいじってないね。」

「うん、家に忘れてきたの。だから、捺騎君と連絡取れなくて・・・。」

もう、私ってば、こんな時に限ってドジだよね~、本当。

嫌になってくる・・・。

「捺騎?捺騎って、藤田捺騎のことですか?」

ふいに、セリアが口を開く。

「知ってるの?」

「知ってるも何も、イトコですから。こっちに住んでるって言ってたけど、本当だったんですね。」

セリアの言葉に、私も芽美も「えぇ~!?」と絶叫。

セリアと捺騎君が、イトコ?

そんなの、初めて聞いたよ。

「ほら、着きましたよ。行かないんですか?」

あ、本当だ・・・。

私たち3人は、いつの間にかカラオケ店の前に立っていた。

あまりに衝撃的なことをセリアが言うんで、無意識の内に着いちゃったみたい・・・。


「あれ、セリア!?」

「お久しぶりです、捺騎。」

セリアは、いつも通りいたって冷静。

「捺騎君とセリアって、イトコだったんだね!さっき私たちも聞いて、びっくりしたよ。」

「僕もびっくりした。まさか卯月が言ってた転校生が、セリアだったなんて・・・。」

捺騎君、開いた口が塞がらないって感じ。

私思わず、ふふっと笑ってしまった。

何だか、こういう時の捺騎君って可愛い。

見てて、笑顔になれるの。

と思って歩いてたら、ドシン!

あーあ、またコケた・・・。


「次、オレ!」

「えー、私だってば!」

芽美と雅君が、曲順で争ってる。

何だかんだ言って、あの2人仲いいよね。

「卯月っ、歌わないの?」

声をかけてきたのは、捺騎君だった。

セリアは向こうで芽美と雅の仲裁に入ってるから、2人きり。

何だか、今までとは違う。

前は、捺騎君と話してるとすっごく楽しかった。

でも今は、それに加えてドキドキもしてるんだ。

私、どうしちゃったんだろう・・・?

「ねえ、捺騎君。」

「何?」

「ドキドキするのって、どういう時?」

私の問いかけに、捺騎君はうーんと黙り込む。

多分、真剣に考えてくれてるんだと思う。

「えっと、病気の時とか、転びそうになった時とか。プレゼントを開ける時も、ドキドキするな。」

つまり・・・私、病気、なのかな?

何の病気だろう?

「私・・・いつのまに病気なんてかかったのかな?」

私の言葉に、え?と捺騎君が声を上げる。

「卯月・・・ドキドキなんてするの?」

「うん、最近たまに。でも、私心当たりがなくて・・・。だから、病気かなって。」

時々、不安になる。

っていうか、不思議。

だって、ドキドキするのって、捺騎君のことを考えてる時ばっかりなんだもん。

どうしてだろう?

「・・・それは、違うと思う。」

「へ?」

「病気じゃないよ。何なんだろう?そういうのは、セリアに聞いた方がいいよ。セリア、心理学とか興味あるから、セリアの方が分かるかも。」

そっか。

セリア、心理学なんて興味あったんだね。

私は早速、セリアのところに駆け寄る。

「セリア。」

「何ですか?」

「ねえ、捺騎君を見てドキドキするのって、何でだと思う?セリアって、いろいろ知ってそうだし。」

私が聞くと、セリアは即答で、

「恋をしているんじゃないでしょうか。」

と言った。

「・・・へ?コイ?」

「そうです。卯月、捺騎を見てドキドキするんでしょう?だったら、それは恋です。」

セリアはにこっと笑顔で言うけど、私にはいまいちよく理解出来なかった。

「・・・ああ、そっか!」

「はい?」

分かったよ、セリアの言った意味!

「捺騎君は、鯉を飼ってるんだね!私、それに反応してるってこと?でも、捺騎君が鯉を飼ってるなんて知らなかったのに、すごいなぁ私。」

セリアが変な目つきで私のこと見てる。

へ?私、何か変なこと言った?

「・・・これは、かなり重症ですね。」

セリアはつぶやくけど、何が?

「ですから、聞いてください。」

うんうん、何?

「例えばですけど、学校で友達とお父さんの話をしていたとします。」

私はすぐに、芽美とお父さんの顔を思い浮かべる。

「その友達が、『最近父親の加齢臭が臭い』と言ったとしましょう。そういう日って、自分の父親からも同じ臭いがするんですよ、人間の錯覚で。例えが変ですけど・・・。ですから、卯月も友達から恋の病をもらったんじゃないんですか?」

うーんと、いろんなとこに突っ込むと・・・。

「うちのお父さん、カレーの匂いなんてしないよ。」

「は?」

「カレー食べた日の夜はするけど。」

でも、カレーの匂いって嫌な匂いじゃないと思うけどなぁ。

「えっと・・・カレー・・・臭・・・?」

セリアが、呆然としてかたまってる。

「それに、捺騎君の家の鯉から、病気なんてもらってないよ。他の友達は、鯉飼ってないだろうし。」

「鯉の病じゃなくて・・・恋の病・・・。」

ああ駄目ですね、とセリアは言い残して、何故か頭を抱えながら芽美たちの方へ戻っていった。

?私、何か変なこと言ったかなぁ・・・?