結局麻紀は叔母さんと仲直りして、家に帰っていった。

何か、嵐が過ぎてった感じだな。

「ふぅーっ。」

私はひとつ、ため息をつく。

夏休みも、ラストスパート。

吹奏楽部は、夏休みの最後の方に長期休暇があるんだ。

だから、せっかくの休みを、のんびり過ごしているところ。

ピンポーン。

そんな時、家のインターホンが鳴り響く。

「はーいっ。」

誰だろう、こんな時に。

ガチャ。

ドアを開けると、そこに立っていたのは・・・。

「ひっ、啓明先輩!?」

「よっ、神子。久しぶり。元気にしてた?」

いや、そりゃ元気でしたけど・・・。

「どうしたんですか?」

私が尋ねると、啓明先輩はいたずらをした後のような笑顔になって、

「じゃーんっ!」

「わっ!・・・何ですか、これ?」

啓明先輩が差し出したのは、何かのチケットみたいなの。

遊園地の・・・優待券!?

「これ、無料ってことですか?」

「そう、神子、もうすぐ誕生日だろ?ほら、神子にはたくさん世話になったからさ。あまり人と話したくないオレをフォローしてくれてたのも神子だし。だから、ちょっとしたお礼がしたくて。・・・オレと一緒じゃ、嫌?」

ちょっと甘い声で、照れたように言われる。

そんなの・・・断れるわけないじゃん!

「いえ、全然いいです。ありがとうございます!」

私は笑顔で返し、神太に書置きを残して出かけた。


遊園地に着いて、私たちはパスポートを受け取る。

「それにしても先輩、私の誕生日覚えてくれてたんですね。こんなチケット、どこで手に入れたんですか?」

「いや、誕生日プレゼント悩んでるところで、福引きで当たったんだ。だから、たいしたものじゃないけど・・・。」

「いえ、充分嬉しいです!」

私は、満面の笑顔で言う。

「そ、そう?」

そんな私に、啓明先輩は少し驚いたようだ。

だって、すっごく嬉しいんだもん。

啓明先輩が誕生日覚えてくれてたってだけでも嬉しいのに、デートまで出来るなんて。

「あ、先輩、ジェットコースター乗りません?」

「え、いや、オレはちょっと・・・。」

「今日、私の誕生日ですよ。」

私はちょっと、むすくれてみせる。

「わ、分かったよ・・・。オレ、絶叫マシーンって苦手なんだよな・・・。」

「そうなんですか?私はがぜん!絶叫マシーン派だな。」

「神子は人並外れてるからいいんだよ。」

啓明先輩でも怖いものがあったなんて、何だか新鮮。

笑っちゃうな。


無事絶叫マシーンを乗り終えて、昼食をとってから遊んでたら、気づいたら夕方になっていた。

楽しかった・・・あまりに楽しくて、時間を忘れてた。

「じゃ、そろそろ帰るか。」

啓明先輩が口を開く。

「あの・・・最後に1つ、いいですか?」

私が問いかけると、先輩はこっちを振り返って首をかしげた。

「最後にあれ、乗りたいんです。」

私が指差した先にあったのは、大観覧車。

ここら辺では一番の高さで、1度乗ってみたかったんだよね。

「駄目・・・ですか?」

私が聞くと、先輩は快い笑顔で「いいよ。」と言ってくれた。

大観覧車の前に行くと、閉園直前だからかあまり人がいなく、乗り場のお姉さんは暇そうにしていた。

私たちを見つけると、

「あら、カップル?」

なんてちゃかしてくるほど暇そうで・・・。

「ち、違います!」

そうやって全否定されると、傷つくんだよねぇ。

先輩ってば、何も気づいてない。

まあ、しょうがないんだけどさ・・・。


「わぁっ・・・。高いですね、さすが大観覧車!」

窓の外の景色を眺める。

丁度もうすぐ、てっぺんまでさしかかりそう。

「きれい・・・!」

「うん、すごい・・・。最後に乗れて良かったな。」

啓明先輩は、笑顔で言う。

・・・ん?

これってもしかして、告白のチャンスなんじゃない?

でも・・・無理だよね。

「神子、どうしたの?急にぼーっとして。」

「あっ・・・、ご、ごめんなさい。本当に先輩いなくなっちゃうんだなって実感して・・・。」

「何言ってんの、後1ヶ月いるよ。アホ神子。」

先輩は笑顔で、私の頭をちょんとこづく。

――――ああ、やっぱり好き。

この声が、

この笑顔が――――・・・。

―――――絶対に神子先輩と啓明先輩、つき合ってくださいね―――――

桃華ちゃんの言葉を思い出す。

そうだ、私今まで、いろんな人に支えてもらってた。

勇気を出さなきゃ。

告白する、勇気を――――・・・。

「・・・あの、先輩。」

「ん?」

「話が・・・あるんですけど。」

私は、真っ直ぐ先輩を見つめる。

先輩も、私から目をそらさないでいてくれてる。

ずっと想ってきた、先輩のこと。

一度は諦めそうになった時だって、みんなの協力があったから――――。

この想い、届くかな?

ずっと胸の内に秘めてきた、この想い――――・・・。

「私、先輩が・・・。」

うまく言えない。

言葉が震える・・・。

「先輩のことが、す・・・っ・・・モゴッ!?」

私は心底驚いた。

っていうか、言葉を全部飲み込んじゃった。

だって先輩ったら、告白しようとする私の口を、手で押さえつけたんだもん!

「なっ・・・何ですか!」

「いや、その先言わないでほしいなーと思って。」

・・・え?

告白されるの、嫌だって、こと・・・?

頭の中が真っ白になる。

どうしよう。

どうしたらいいんだろう・・・。

「・・・別に、神子のこと嫌いなわけじゃないよ。ただ・・・。」

そこで先輩は、一度言葉を切る。

「その言葉、3月の定演の日がいいなって。」

「えぇ?」

先輩の言葉に、私の声はひっくり返ってしまった。

「・・・どうして、そこにこだわるんですか。」

「感動的な言葉は、最後の日の方がいいだろ?オレも、神子のこと――――・・・。」

「へ?」

「・・・いや、何でもない。」

その後の先輩は、ずっと無言で・・・。

私はどうしたらいいのか分からず、ただその場に座っていることしか出来なかった――――・・・。