コンクールが終わった。

結果は、銀賞の一番上、6位。

後ちょっとで、県大会だったんだけど・・・。

これで、ほとんどの3年生はいなくなる。

啓明先輩も――――・・・。


「今年からルールを変えて、9月いっぱいは水曜日を3年生練習日とする!」

・・・え?

「だから、水曜日は来るように!」

この時ばかりは、先生に感謝したくなった。

水曜日、一週間に1回は、先輩に会える。

これほど嬉しいことはなかった。


「良かったね、神子!」

麻紀が声を上げる。

「うん。受験勉強出来なくなるのは、ちょっと可哀想だけど・・・。」

「本当だよ。」

わあっ!?

「啓明先輩!?どうしたんですか?」

「ちょっとグチりに。だって、水曜日塾入ってんのに・・・。」

先輩は浮かない顔をしてるけど、私はつい笑顔になっちゃう。

「神子。どうしたの?いいことでもあった?」

「いえ、別に。」

私、よく分かりやすいって言われるんだけど。

本当にそうなんだな・・・。


「あっ、神子先輩!」

「桃華ちゃん・・・。」

「あの・・・どうでしたか?」

桃華ちゃんが、不安そうな瞳で見つめてくる。

・・・これって、ありのまま伝えていいのかな・・・。

ううん、怖がっちゃ駄目。

啓明先輩が言ってたことを伝えられなくても、自分の想いは伝えなきゃ。

「あのね、桃華ちゃん、私・・・。」

「知ってますよ、先輩も好きなんでしょう?」

え?

「ずっとずっと知ってました。先輩、分かりやすいですから。」

桃華ちゃんが、ニコニコ笑顔で言う。

どういうこと・・・?

「今、先輩の反応見て、分かりました。啓明先輩、私のこと嫌ってるんですよね。」

「そんなこと・・・。」

「慰めはいいです。神子先輩の優しさに、どれだけ傷ついたことか。・・・有難迷惑なんですよ。」

桃華ちゃん・・・。

どうして?

私、今まで桃華ちゃんにそんな思いさせてたつもりじゃ・・・。

「神子先輩はいいですよね。麻紀先輩みたいに自分のことを一番に考えてくれる親友がいて、好きな人とも仲良くて。・・・ずっと、恨めしかったんですよ、いつも幸せそうに笑ってる先輩が!」

「桃華ちゃん、私・・・。」

すると、ふっと桃華ちゃんはうつむいて言った。

「ごめんなさい。こんなこと、一生言うつもりなかったんです。ただ、転校を機に啓明先輩に告白しようと思ってたんです。なのに先輩、私に協力してくれる態度じゃなかったから・・・。すみません。」

「転校!?桃華ちゃん、転校しちゃうの・・・?」

私の言葉に、桃華ちゃんは驚いた顔をする。

「・・・どうしてそんなに寂しそうなんですか。私、今先輩に失礼なこと・・・。いなくなればいいって、思ってないんですか?」

そんなこと、思うわけないよ。

桃華ちゃんは、可愛い後輩だもん。

何があったって、嫌いになったりしないよ。

「そんなこと、思ってない。桃華ちゃんがいなくなったら、悲しいよ。」

しばらく、沈黙が続く。

「・・・1つ言うと。」

沈黙を破ったのは、桃華ちゃんだった。

「私、先輩に相談するずっと前から啓明先輩のこと好きだったんです。だから、最初は協力してもらおうとして神子先輩に近づいたんです。でも・・・。」

桃華ちゃんは、一度そこで言葉を区切る。

「神子先輩、本当にいい人で・・・。私、本気で神子先輩に向き合いたいと思い始めました。本当に信用していたし、心から大好きです。・・・それだけ、伝えておきたくて。」

「桃華ちゃん。」

「今まで、短い間でしたけど・・・本当にありがとうございました。」

桃華ちゃんの頬を、一滴の涙が濡らしていく。

桃華ちゃん・・・。

入部してきた時、何も分からない桃華ちゃんにいろいろ教えて・・・。

私だってその時は、ただ後輩にいいとこ見せたくて、ってだけだった。

でも、桃華ちゃんの可愛さや良さを知っていく度に、この子と仲良くなりたいなって思うようになったの。

「・・・私も、心から桃華ちゃんが大好きだよ!」

「先輩・・・。」

「ね、だから、また絶対会おうね。約束!」

私、自然と笑顔でいることが出来た。

「・・・啓明先輩と、絶対幸せになってくださいね。」

私は、コクリと頷く。

「・・・明日には、誰にも言わずに行きます。先輩と話せて、良かったです。」

桃華ちゃんも、笑顔だった。

「さようなら。」

桃華ちゃんは、ペコリとおじぎをする。

・・・最後なんだろうな。

幼い桃華ちゃんに会えるのも。

次会った時は、どんな大人になっているのかな。

楽しみにしてるね、桃華ちゃん。