でも私は、李駆斗への気持ちを誰にも言わなかった。
もちろん、幸湖にも。
李駆斗とは今まで通り接しようとしたし、今更態度を変える気もなかった。
恋愛って初めてで何なのか分かんないし・・・。
そんなある日のことだった。
「紫昏っ、聞いてよ!」
弾んだ声の李駆斗なんて久しぶりに見たから、ちょっと驚いた。
「な、何?どうしたの?」
「なあ、オレさ、どうしてこんなに機嫌が良いんだと思う?」
わざとらしくじらすのも、李駆斗の可愛いくせだ。
「何よ。またじらすなら、聞かないからね。」
「何だよ、紫昏。最近、ノリ悪りぃじゃん。」
口を尖らせる李駆斗を見て、一瞬ひやっとした。
態度、変えてないつもりなんだけどな・・・。
「で、どうしたの?」
「へへっ・・・実はオレにな、妹が出来るんだ!」
「えぇっ!?」
李駆斗が、満面の笑みで頷いた。
「今度の冬にな。紫昏には一番に伝えたくて。」
え?
ドキン・・・。
鼓動が高鳴る。
私に一番に伝えてくれたのには、意味があるのかな・・・。
「初めての女の子だから、母さんも父さんも今から張り切っててさ。生まれる日は、オレも学校休んでいくんだ。」
こんなに嬉しそうな李駆斗見たの、初めて・・・。
「李駆斗、嬉しい?」
私が聞くと、
「当ったり前だろ!」
また、満面の笑みで返してくれた。
――――この時は、まだ思ってもみなかったんだ。
まさかこの出来事が、
李駆斗との別れの全てのきっかけになってしまうなんて―――――・・・。
1月、冬休み明け。
「あれ?紫昏、風邪?」
幸湖が不思議そうに尋ねてくる。
「ううん、違うよ。」
「じゃあ、何でそんなに服着込んで・・・。」
だって・・・。
私、お正月って大好きだから、おせち料理をいっぱい食べたり、初詣の屋台で食べまくってたら・・・。
3kg、太っちゃったんだもん!
そんなの、李駆斗に見せたくない・・・。
「おーっす!久しぶりー!」
ぎく。
き、来たぁーっ!
「ん?紫昏、お前。」
やばい、ばれた!?
「髪、切った?」
ずるっ。
そ、そっちか・・・。
「うん、気分転換に、ね。」
「ふーん、似合うじゃん。」
え?
さりげなく言った李駆斗の言葉が、今の私にとっては何よりも嬉しい。
また、私の胸が高鳴る。
「へぇ~、李駆斗君、何気紫昏のこと気にしてんじゃん。」
幸湖がニヤニヤしながら言う。
「はっ、はぁ?!オレはただ、紫昏の髪型について言っただけで・・・。」
「だって私、気づかなかったよ。よっぽど紫昏のこと、見てるんだね~♪」
「うっ、うるせー!からかうな!」
そう言い残して、李駆斗は男子グループの方に駆け寄った。
幸湖にはまだ気持ちを打ち明けてないはずなのに、この頃私と李駆斗に何かと突っかかってくる。
もしかして、バレバレ・・・?
「あーあ、紫昏はいいなぁ。愛されてて。」
「はぁっ!?何それ!」
「何でもないよー。怒んないでよ。」
幸湖は、軽くあしらった。
ピンポーン。
李駆斗の家のインターホンが鳴り響く。
「李駆斗ったら、寝坊かな?」
独り言を言ってみたけど、どうもおかしい。
おばさんまで出てこないなんて・・・。
しばらくして、やっと家のドアが開く。
「あ!李駆斗、学校始まっちゃうよ!急いで・・・。」
そうまくしたてると、そこにいたのはおじさんだった。
何だか、元気がないみたいだけど・・・。
「おじさん、李駆斗いる?」
「ああ・・・。今日は学校を休ませるよ。すまないけど、そう伝えておいてもらえるかな?」
え・・・?
何か、嫌な予感がする。
でも、気のせいかもしれないし・・・。
「分かりました。伝えておきます。」
とりあえずそう言って、李駆斗の家を後にした。