多くの作曲家が手がけるという観点で語りたい。その1はバロック期に多用された舞曲。
1 イベリアの舞曲
旋律の由来は定かではない。もともとは「狂気」「常軌を逸した」(フォリア)なる意味だが、かつては3拍子の一定の形式を示していたものと思われる。が、今日はたった一つの旋律的動機「ラ・フォリア」として伝わっていて、バロック期に「シャコンヌ」や「パッサカリア」同様に変奏曲として発展した。記事『オスティナートの結実』でも指摘したが「変奏曲」は音楽の発展の立役者である。
しかし、「ラ・フォリア」のように多くの作曲家に扱われた同一旋律というのはめずらしい。
有名なアルカンジェロ・コレルリのヴァイオリンソナタ 作品5-12 ニ短調 『ラ・フォリア』に関して、コレルリのオリジナルである、
ヘンリック・シェリング Vn コレルリ『ラ・フォリア』
と思われている場合もあるようだが、そうではない。
この旋律に作曲した主なバロック期の作曲家を挙げると
アルカンジェロ・コレルリ
ジャン=バティスト・リュリ
マラン・マレー
アレッサンドロ・スカルラッティ
アントニオ・ヴィヴァルディ
フランチェスコ・ジェミニアーニ
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ以降は、「ラ・フォリア」旋律の使用は少なくなるが、それでもリストやラフマニノフが採用している。旋律が後期ルネッサンス的で、半音がほとんどなく。ゆえに転調が内在しない(イ短調における音形は、A-E-A-G-C-G-A-E、である。)がゆえに、ロマン派にはテーマとして必ずしも受け入れられなかったのだろうか?
とにかく、イタリアバロックでは大流行の旋律であった。
ヴィヴァルディ編はこちら
https://youtu.be/3b5ws3fqA30?t=71
ホヴウッド 盤 ヴィヴァルディ トリオソナタニ短調 『ラ・フォリア』
コレルリのソナタのシェリング盤はチェンバロの伴奏を伴ない、ヴィヴァルディはトリオソナタとして複数楽器によって奏でられる。よって転調しないテーマの変奏は、和声進行に支えられながら、そこから副主題を重ねる後のフーガの発展を「和声的根拠」に基礎付けていくのである。
ここでピアノが、3声、4声の楽曲を生み出す技術に、バス進行のアクセント強調というのがあるのだが、これを分散和音的処理により、単音楽器にあっても、「2声」を実現する手法がある。これを良く聴き取ることができるのはバッハの無伴奏チェロ組曲第1番第1曲だが、この手法による、アラン・マレーの『ラ・フォリア』の
ペーター=ルーカス・グラーフの演奏である。
徹底してバス強調のアクセントが、「2声」音楽として単音楽器の演奏とは思えない。グラーフの深みのある音色が手伝って大変魅力的である。
フルートを吹くわたしは、高校時代に、かつてクラーヴェスレベールから発売されていたLPでこのグラーフ盤を持っていた。LPが擦り切れそうになるほど何度もほど聴いた。それはフルート奏者グラーフさんへの傾倒であったとともに『ラ・フォリア』という音楽へのわたしの精神のアプローチでもあった。以後様々な『ラ・フォリア』と出会ってきた。
ジュミニアーニの『ラ・フォリア』は、合奏協奏曲で「オーケストラ版」ともいえる。バッハやヘンデルの管弦楽作品と比べると、変奏曲を主眼としていることが分るが、当時の大編成で音楽にコンサートホール的奥行きを感じさせる。
さて、バロックの限界を超えて、後期ロマン派の華麗な半音階に「ラ・フォリア」旋律をひき込み、時に別世界に誘うのが、
ラフマニノフの 『コレルリの主題による変奏曲』 ニ短調 作品42
である。変奏によってはテーマが捕らえずらいが、和声は単純なのでそれが手がかりを与えてくれる。作品は近現代的な雰囲気を漂わせるが、この作品を聴きこむ前提は、バロックの「ラ・フォリア」をよく聴いておくことで得られる。
グリモー ピアノ
意外と近代音楽はバロックから、一般に思われているほど遠くないのかも知れない。ブラームスにバッハの臭いを感じるわたしは、今日はラフマニノフにコレルリやヴィヴァルディ、アラン・マレーを感じてしまった。
つづく