「え?」

マリ子が聞き返す。

「貴女が?」

「はい」

マリ子は暫く考え込んだ。

「彼の子、よね」

「もちろんです」

「検査薬を使って?」

「はい。病院は明日行こうと思うんですけど・・・」

マナはジンジャーエールの入ったグラスを握り締めた。

「ただ・・・彼になんて言ったらいいか・・・わからなくて」

マナは数週間前の出来事をマリ子に話した。

「やっぱりあの時が危なかったんです。わかってたのに・・・私」

慰めることも、叱ることも出来る。だが、今はそんなことを言っている場合ではない。

マリ子は黙って聞いていた。

「彼の結婚に対する姿勢がいい加減なのはわかってたんです。まだお互い若いから・・・遊びたいとか束縛されたくないっていうのはわかりますし、言葉の端々にも薄々感じてました。だから、結婚とか考えられないっていうのもわからなくはないんですけど」

マナは青白い顔のまま続けた。

「ただ、どうやって彼に言っていいか。言ったら間違いなく・・・」

そこでマナの言葉が途切れた。

「堕ろせって・・・言われ・・・る・・・」

言葉の最後は嗚咽だった。

マナは暫く泣いていた。

マリ子も今夜は静かでよかったと思った。

「彼女にそんな心配をさせるっていうことが、男として最低ね」

マリ子は独り言のように呟いた。

ひとしきり泣き気が済んだのか、マナは持っていたタオルで顔を拭うと無理矢理笑顔を作った。

「すいません。なんか、誰に言ったらいいか・・・わからなくて。マリ子さんなら、経験豊富そうで・・・勝手に・・・親身になってくれるような気がして来ちゃいました」

「いいのよ。まあ、私は聞くことしかできないけど、それでも気が済めば」

「ありがとうございます」

「ただ、まだ初期の段階で正常に妊娠しているかはわからないと思う。堕ろすにしてももう少し先じゃないと出来ないんじゃないかしら」

「そうなんですか」

「彼がどうであれ・・・産むつもりなんでしょ」

マナは黙って頷いた。

「それなら、彼のことなんて気にすることないわ。自分の決断したことを告げればいい。どう出るかは彼次第」

その言葉にマナは再び強く頷いた。


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