母の記憶もあまり無い。
今考えるととてつもなく貧乏だったのだろうが、母とマリ子二人きりの世界だったので、そこに他人との違和感を覚えることもなかった。
マリ子はめったに外にはでなかったし、近所で友達もいなかった。
母は「おしごと」以外ではほとんど眠っていた。
食事を作ってもらった記憶もない。
時折、出来合いの惣菜をどこかで買ってくるか、おせんべいなどを食べて二人ですごしていた。
「清太郎さんが用意してくれたの」
ある日部屋の食卓がご馳走で埋め尽くされたことがある。
あれは、母の誕生日か何かだったのだろう。
綺麗に化粧をして、清太郎と和やかに話す母。
その頃には自分に父という存在がかけていることも気づきながら、清太郎が父親だったら良かったのにとも思うようになっていた。