歴史好き×・タレント好き◎ 松潤大河『どうする家康』のリスクと可能性
松本潤主演『どうする家康』の初回が放送された。
平均視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)は世帯15.4%・個人9.6%で、直近大河ドラマ3作と比べ最低のスタートとなった。
しかしスイッチメディアのデータからは、今作にリスクと可能性が同居していることがわかる。
年層別個人視聴率では、若年層が近年で最も高い。
また特定層でも、「歴史好き」に敬遠されたが、「女子高生」「タレントに興味」「SNSヘビーユーザー」で高い数字となった。
昨春の改編以降、NHKは高齢者だけでなく、若年層など幅広い層に見てもらえる方向をめざしている。大晦日の『紅白』に、ジャニーズ・K-POP系・配信系の人気歌手が多く登場したのもその一環だった。
こうした編成方針に照らしてどうなのか。
松潤大河の可能性を、データと視聴者の声で検証する。
世帯視聴率最低の真実
『どうする家康』初回の世帯は15.4%。

前作『鎌倉殿の13人』が17.3%、2年前『青天を衝け』20.0%、3年前『麒麟がくる』19.1%だったので、近年では最低記録となった。
記録が残る63年以降でも、過去2番目に低い数字だ。
89年『春日局』が14・3%、18年『西郷どん』の15・4%と並び、低調な初回だったのである。
ただし個別に数字の多寡だけを見て一喜一憂するのは早計だ。
『春日局』の時代は、HUT(総世帯視聴率)が70%を超えていた。100世帯中7割以上の家で地上波テレビがついていた。
ところが一昨年のHUTは6割を切った。そして22年は52.8%しかない。つまりテレビ離れが急速に進んでいる中で、個別番組の数字が下がるのは至極当然なのである。
逆に世帯占拠率は『鎌倉殿の13人』より高い。
同時間帯の横並び番組の中でもトップとなった。しかも「#どうする家康」がツイッターの世界トレンド1位だ。テレビ番組が激しい逆風にさらされる中、今作初回は健闘していたのである。
誰が離れたのか?
では『どうする家康』を敬遠した人は誰だったのか。
まず年齢層でみると、高齢者が大河から離れ、若者が普段より見ていたことがわかる。

過去3作と今作の初回を比べてみよう。
まずF4(女性65歳以上)では、過去3作は17%前後と高値安定状態だった。男性65歳以上と同等の数字で、2002年『利家とまつ』以来、『功名が辻』(06年)・『篤姫』(08年)・『江』(11年)・『八重の桜』(13年)・『おんな城主 直虎』(17年)など、“女の子大河”を積極的に制作してきた効果が表れていたのである。
ところが今作でF4は急落した。
過去3作と比べると、3割以上の下落となった。65歳以上の男性との関係でも、これまでは女性の数字の方が1割ほど高かったが、今作では2割以上低くなった。
「歴史に疎い人たちにも少しでも親近感をという狙いなのかもだけど、おちゃらけ過ぎてつまらない」
「鎌倉殿と比べるとなんだか全体的に安っぽい演出」
「ロゴも妙にポップでしっくりこないし。 オープニングもなんか渡鬼思い出しちゃった」
これまでの作品と大きく異なるテイストに、拒否感を示す視聴者は少なくない。
高齢層を中心に違和感を持つ人々が離れたことが、世帯視聴率の急落につながっていたのである。
若年層が注目!
高齢層とは逆に若年層にはよく見られた。
FT(女性13~19歳)では、今作が3.8%と近年の最高値となった。
『麒麟がくる』の2倍以上と大きく躍進した。軽妙な会話で話題だった三谷幸喜による『鎌倉殿の13人』と比べても、1.5倍と数字が急膨張した。
F1(女性20~34歳)も同様だ。
3.8%はやはりトップ。『鎌倉殿の13人』と比べても、1.4倍と大躍進を果たしていた。
一方F2~F3には大きな変化がない。
F2(女性35~49歳)は微減、F3(女性50~64歳)は微増だった。高齢層が敬遠・若年層は注目と両端の年齢層で真逆の反応が起こっていたのである。
ちなみに男性視聴者にも大きな変化はなかった。
MC(男性4~12歳)・M2(男性35~49歳)・M4(男性65歳以上)が微増、MT(男性13~19歳)・M1(男性20~34歳)・M3(男性50~64歳)が微減となったが、その差は大きくない。
つまり今作のキャスティングと演出テイストには、高齢と若年の女性が大きく反応していたのである。
誰がハマったのか?
では特定層別の個人視聴率で比べてみよう。

まず注目すべきは“歴史好き”層。
近年の初回を比べると、戦国時代を描いた『麒麟がくる』と幕末維新の『青天を衝け』は、大河の定石通りに同層に人気だった。
ところが大河の枠を超えようとした『鎌倉殿の13人』で2~3割数字を下げた。さらに今作は半分近くまで落ちてしまった。
「全然脚本に歴史へのリスペクトが感じられないなぁ。ちょっと残念かなぁ」
「コアな歴史ファン度外視のライト層向けな演出」
「大河ファンが期待する人の心の奥底を揺さぶるシナリオときめ細やかな演出はほとんど見られず残念」
ところが“女子高生”や“タレントに興味”で大躍進した。
前者の3.6%は前作の1.7倍、後者の4.8%も前作の1.2倍強、『麒麟がくる』比では1.8倍と急伸していた。
「松潤と有村架純の夫婦可愛い、岡田君カッコ良い」
「推しが主演なので昨日はドキドキしながら観たのだけど面白かった」
「好きな芸能人が出ているというだけで何度も諦めてきた大河ドラマ(歴史ちんぷんかんぷん)を見るモチベーションが上がる。すごい、好きな人のパワーすごい」
演出やテイストも起爆剤になっていた。
これまで大河ドラマを敬遠してきた層が惹きつけられている。
「大河ドラマは何年も見ていなかったのですが、今時の大河ドラマは現代風にアレンジされていて面白いなーと思いました」
「初大河デビューを果たしました。歴史苦手ですが、とても面白かったです」
「ほとんど観ない大河ドラマだけど今年は観てみようかな~」
「(一度もちゃんと観たことなかったけど)展開も早く面白かった。次も観たいって初めて思った」
視聴シーンも今までと変わって来ている。
小中高生の視聴率が上がっているが、同時にその親世代の数字も上がっている。親子随伴視聴が増えている可能性がある。
「歴史オンチの私にマウント取ってくる息子と旦那!」
「松潤好きな下の子。受験前まで続くし、みるのどうしようかな?って迷っていたけれど、観ることにしたみたい。嬉しいぞ」
「長男と共にハマり、今年の最初の楽しみを発見できてワクワクしたまま寝れました」
「子が、昨日のどうする家康を自主的におかわりしてる。出だし上々だー(中略)頼むよ、狼さんと白うさぎちゃん」
“親思う心に勝る親心”。
暗記で嫌いになりがちな歴史をドラマで好きになって欲しいという親も少なくない。
家族で歴史の知識を競い合いながら見ている親子もいる。登場人物が悲惨な死に方をすることが多かった前作と異なり、今回はテレビの前に団欒が出来はじめている。
そして今後の可能性を感じさせてくれるのがSNS利用者。
1日2時間以上のヘビーユーザーでみると、前作から今作と飛躍的に数字が伸びている。『麒麟がくる』比では、今作は3.6倍と大躍進なのである。
家族の随伴視聴は近年珍しい。
また歴史嫌いも引き込むことで、学校で「昨日大河見た?」的な会話が出そうだ。さらに口コミ以外に、ネット上での拡散が追い風を引き起こす可能性もある。
初回の世帯視聴率こそ今世紀最低レベルだった。
それでも視聴データを精査すると、今後の可能性を感じさせる視聴者の反応だったと見るべきだろう。
典型的な大河ドラマからは大きく逸脱しているかも知れない。
それでも、イヤ、だからこそ大きな可能性を秘めてスタートした今作。“歴史好き”に敬遠されるリスクをとって、どこまで視聴者層を広げるのかを楽しみにしたい。