本日は、最近読んでおもしろかった書物です![]()
・寺嶌 曜(てらしま・よう) 「キツネ狩り」(新潮社,2023)
著者は1958年大分出身、福岡在住。
本業はグラフィックデザイナーで、本作が 「新潮ミステリー大賞」 を受賞し作家デビューとなりました。選考委員が湊 かなえさん、道尾秀介さん、貴志裕介さんというので、とりわけ興味がそそられる受賞作です。
北九州のN県登坂市(架空)。登坂警察署の尾崎冴子刑事は、人為的な事故で婚約者・有介と右目の視力を失いました。
それから3年。旧知のエリート新署長・深澤航軌と元上司の弓削拓海警部補、ずっと心身の治療にあたってくれ、今や親友になった脳神経医・霧島環奈に冴子が告げたのは右目に起きた怪異。
見えぬ目に稲妻が走るや、眼前に3年前の光景がまざまざ現れるというのです。つまり3年前の犯罪現場に赴けば、そのとき起こった出来事を目撃できるという。
そんなものに証拠能力が生じるわけがないですが、犯人の姿かたち、犯罪の実相がわかれば捜査上で圧倒的に有利。このことは4人だけの秘密にし、深澤署長は ‟継続捜査支援刑事部” を新設して冴子と弓削に班を預け、N県最大の未解決事件である 「笹塚一家四人殺害事件」 の捜査を託すのでした―
五章立ての全350頁長編。
超能力を持つヒロインという特殊設定ミステリーではありますが、内容は実に濃厚で虚構性が気になりませんでした。
ヒューマンドラマも秀逸で、弓削には過去の半グレとの格闘で右手の握力を失い拳銃を握れぬハンディキャップがあります。たたき上げのそんな弓削とエリート深澤の愛憎なかばの不思議な関係は、冴子の大きな支えとなります。
また当の冴子は超能力を活かす以上に、眼前に凄惨な光景があるのに、3年前のことゆえ何もできない傍観者の立場。メンタル的に耐えられるものではない葛藤に、心が折れていくリアルな描写が迫ります。
有介を失った3年前の事故にも、今現在手掛ける笹塚事件の真相もやるせない展開と結末を予感させるうえ、フィジカル的には冴子も弓削も他人に引けを取るので、ついに現れる容疑者との対峙はなかなかリスキーです。
よくぞこの内容を350頁で収めたな、と感心するほどてんこ盛り。選考時に異論出ずだったのいうのも納得な読了感でした。ぜったいドラマ化されそう。
