*2月25日エントリー の続きです。

 

 

 R大学文学部史学科の院生・あんみつ君ニコ、今回は近現代史にしらたま教授オバケとの歴史トークで、テーマは天保の改革周辺。

 

 本日は、天保の妖怪鳥居耀蔵 のおはなしです。

 

 

 

 

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 あんみつにやり 「しらたま先生、首相となり天保の改革に着手した老中水野忠邦は、閣僚に信頼できる人員を揃えました。好き嫌いではなく能力重視ではありますけど、とくに気に入りの部下が出来るのは無理もないですね。目付の鳥居耀蔵、天文方・渋川六蔵、御金改役・後藤三右衛門は、‟水野の三羽烏” と呼ばれました」

 

 しらたまオバケ 「抜擢組でいえば、小普請奉行・川路聖謨、勘定吟味役・羽倉外記(簡堂)、伊豆韮山(にらやま)代官・江川太郎左衛門英龍(ひでたつ)は ‟三兄弟” の異名を取る親しさだった。川路は水野について、『仁恵ハ深カラザル人ナレドモ、能ク人ヲ用ヒ...剛愎ノ癖ハアレドモ世間ニテ悪シク言フ程ノ事ハ決シテ(情け深いとは言えないが、きちんと部下を評価してる。時々ムカつくこともあるけど、世間で言われるほど悪い人じゃないよ)』 と言ってる」

 

 あんみつしょんぼり 「能力主義というのは一見理想的ですけど、何をもって能力とするのか。それが現代と同じく、組織や上役におもねるものだったら世人には迷惑の元になります。それをもっとも象徴する人物が鳥居甲斐守耀蔵(1796~1873,諱は忠耀ただてる)。カイとヨウゾウを引っかけて、‟妖怪” の異名で知られる怪人物です」

 

 しらたまオバケ 「鳥居は幕府文官の大学頭・林 述斎の次男。述斎は江戸時代でも屈指の大学者で、現在の歴史学者にとってもマストな 《徳川実紀》 《寛政重修諸家譜》 といった史料を作った人物だ。きょうだいが多かったので、25歳にして旗本2500石鳥居一学の養子に出された。父に似て頭脳明晰だったが、若いころは花街で鳴らしたこともあるという」

 

 あんみつニヤ 「まるで遠山金四郎みたいですね。違うのは、役人になったとたん陰険な性質になったこと。中奥番から天保九年(1838)に目付になると、最初の仕事は大塩平八郎の乱の処理でした。大塩を英雄視する世論を鎮めるため、その罪状を江戸と大坂の民衆に示す公文書作成です」

 

 しらたまオバケ 「鳥居の作った漢文600字に及ぶ断罪書はダラダラと長い。‟憎むべき偽善者” ‟養子格之助の嫁と姦通” ‟愚昧なる門人を洗脳” ‟慈善と称する人気取り” ‟反賊の名を嫌い正義面” ‟同意しない門弟は惨殺” など、作り話三昧のでっちあげは、さながらトランプ支持者の陰謀論者がSNSでピザゲートなどのフェイクニュースを拡散するような卑劣なやり口だ」

 

 あんみつアセアセ 「この文面は幕閣でも評判悪かったのに、水野老中はいたく気に入ったんですね。これで大塩の評判をたたき落とし、幕府の威信を回復できると思ったんでしょうか。鳥居は使えるヤツだ、と踏んだようです。ところが徐々に政権の厄ネタというか、同僚の足元すらすくう非情人の顔を見せていきます」

 

 しらたまオバケ 「天保九年(1838)十二月、水野老中は前年に米船モリソン号が漂流日本人を乗せて浦賀沖に来航してきたのを砲撃、打ち払った事件を受けて、海辺防備のため浦賀海岸測量を鳥居に命じた。副役は江川太郎左衛門。長崎のオランダ商館で働いた幡崎 鼎(はたざき・かなえ)に学び、西洋兵学通だった江川がメインだ。ところが鳥居はこれを嫌い、上役である自身で功績を挙げようとした」

 

 あんみつえー? 「儒学者出身の鳥居は洋学を憎悪していたようですね。現在でも政治家は、法学者とか弁護士とかの専門性がない地盤だけの世襲議員が多いですから、わからないんだったらせめて専門家を頼ればいいものを、原子力規制委員会とか新型コロナの感染症分科会のように、政権の意向に沿う御用学者しか起用しないという」

 

 しらたまオバケ 「このとき鳥居は小笠原貢蔵という松前奉行所から来た測量士を連れて図面を作らせたのだが、その出来は江川が絶句するほどズサンなものだった。ことは海防という大事なので、洋学仲間の三河田原藩家老・渡辺 登(のぼり,崋山)に相談すると、奥州水沢出身、シーボルト門下蘭学医・高野長英の弟子の測量士、内田五観(いつみ)を派遣してくれた」

 

 あんみつウシシ 「彼は浦賀だけじゃなく相模伊豆、安房まで海岸を測量し、標高から海底深度まで計算しました。高野がこれを精査、画家でもある崋山がこれを図にしたので、その出来は素晴しく、幕閣を感心させました。内田はのちに富士山の標高を計算し、明治になってからの改暦や尺貫法の制定に貢献した数学の達人ですからね。江川の株が上がり、鳥居の評判はガタ落ちです」

 

 しらたまオバケ 「この一件は、陰険狡猾な鳥居に深い怨みをもたらした。渡辺崋山、高野長英ら洋学者に対する憎しみを増大させたのは言うまでもない。海岸防備という国家事業に名誉も嫉妬もなさそうなものだがねぇ。報復の機会を狙う鳥居はやがて、同じく評判落ちた小笠原貢蔵を手下に使い、近世日本の歴史的損失といえる大疑獄事件をでっちあげる。教科書にいう <蛮社の獄> だ」

 

 

 

 

 

 今回はここまでです。

 

 天保の改革首相の水野忠邦が抜擢した閣僚のひとり、鳥居耀蔵はその奸佞邪智な性質で続々と政敵や個人的に嫌いな人物を罠にかけていきます。

 

 次回、尚歯会夢物語 のおはなし。

 

 

 それではごきげんようオバケニコ