本日は、最近読んでおもしろかった書物です本

 

 

 

 

 ・伊与原 新 「藍を継ぐ海」(新潮社,2024)

 

 

 著者の作品は以前 「八月の銀の雪」 を読みました。

 本作は2021年~2023年にかけて 「小説新潮」 などに掲載された短編集の単行本化。2024年下半期、第172回直木賞を受賞しました。

 

 

 ・「夢化けの島」

 

 山口県萩市の離れ小島・見島。国立大で岩石学の助教を勤める歩美は、萩焼の釉薬に使われていた伝説の見島土を探し求めるカメラマンの三浦と知り合います。将来に迷った彼の目的に、研究者としての自身が重なる歩美―

 

 

 ・「狼犬ダイアリー」

 

 奈良県東吉野村。フリーのウェブデザイナーといいながら、東京から逃避してきただけと自嘲するまひろは、やたら寄ってくる村の小学生拓巳が、オオカミを見たと騒いでいるのに辟易します。とっくに絶滅したはずのニホンオオカミなんているはずないのに。

 

 

 ・「祈りの破片」

 

 長崎県長与町の限界集落で、ある空き家から目撃される不審な青白い光が高齢住民を怖れさせていました。放っていけないと家宅捜索した警察が発見したのは、1945年~1946年の原爆被爆地を調査した詳細ノートと、大量の石のサンプル―

 

 

 ・「星隕つ駅逓」

 

 北海道旭川市遠軽町。火球とともに落下したと思われる隕石を拾った身重の涼子は、発見場所をあえて偽るのでした。しかし研究者からすればすぐわかる嘘。その理由を知った夫の信吾は感謝しつつも、生まれてくる子どものため正直になろうと説得します。

 

 

 ・「藍を継ぐ海」

 

 徳島県阿須町。廃れた港の姫ヶ浦には、アカウミガメが産卵のため上陸してきます。産んでも育つのはごくわずかと知った中学生の沙月は、納屋で孵化させようと、こっそり5つのウミガメの卵を持ち帰るのでした。卵泥棒、の声に怯えながら。

 

 

 

 東大で地球惑星科学の博士号を取ったという著者だけあり、科学×ヒューマンドラマの合わせ技が絶妙です。直木賞納得。

 

 5編はそれぞれ火山学、狼と犬の分岐点、長崎原爆の実相、隕石、ウミガメの生態、と知らなかった科学の話題で引きつけながら、登場人物の生活や人生が掘り下げられていきます。共通するのは ‟自身への罪の意識” でしょうか。

 

 「勉強になるうえ感動」 という贅沢さに浸れた一冊でしたが、当今の本邦の地方が、お世辞にも将来明るいと言えない実相に、読んでて固まる思いもした次第です。