本日は、最近読んでおもしろかった書物です本

 

 

 

 

 ・麻宮 好(こう) 「ひまわりと銃弾」(小学館,2026)

 

 

 著者は群馬県出身、津田塾大卒。会社員、塾講師を経て2020年に小学館主宰 <日本おいしい小説大賞> 応募作でデビュー。

 以来、時代小説の新鋭として警察小説新人賞、日本歴史時代作家協会賞新人賞を受賞しています。本作は書下ろし最新刊。

 

 

 昭和四年、浅草。矯正院上がりの原口ハジメは頼る先もないまま牛飯屋の手伝いで糊口をしのいでいたところ、店の常連客で同い年の東 卓三(ひがし・たくぞう)と打ち解けます。彼はゴオホの描いた向日葵の画に魅せられ、いつか自分もこういうものを作りたい、と漠然とした夢を語るのでした。

 

 連れだって見物した浅草六区でのエノケン喜劇舞台。これだと思ったふたりは演劇一座を組むことにします。

 ハジメと卓三だから名付けて ‟一三(いちみ)座”。浅草伝法院前、ひょうたん池のほとりでの野芝居から始まると、義父の虐待から逃れ家出してきた藤田冴子、冴子を引き取った赤井の叔母さんの長女富美と、団員も増えてきました。

 

 次第に客足が増え、六区での劇場仕事も入ってくるようになると、斬新な題材を求めて苦しくも楽しい日々。しかし世相は戦時色が濃くなり、エンタメの世界にも息苦しい規制が強くなるのでした―

 

 

 約460頁長編。関東大震災の被害残る東京下町を舞台に、演芸への夢を追いながらも戦争に向かう時世に翻弄されていく十数年の物語です。

 

 ハジメが矯正院に入ることになったいきさつ、卓三がなぜ裕福な実家を出たのかなど次第に明かされるキャラクターの掘り下げとともに、戦時体制で国民生活が縛られていく様子もじっくり描かれます。真綿で首を絞められるとはこのこと、といった観。

 

 警務課所属でカメラマンを務める高田陽一刑事は一味座に好意を寄せ、上演内容について これはだいじょうぶ これはマズい とアドバイスをくれるのですが、締め付けは次第にエスカレートしていきます。それは当局の方針というより、時局通を気取った観客の指摘や監視官の腹ひとつという理不尽。

 

 やがて親しい人に赤紙が来たり、空襲で生活自体が破壊されていきます。壊れていくのは町だけじゃなく人の心も同様。

 

 先の見えない絶望の日々からすべてを解放せしめたのは日本の敗戦だった、という人知にあらざる切ない結末ではありますが、戦時下では儚くもたくましく生きる市井が演芸の世界を通していかんなく描かれていました。カメマル進呈の最高すぎる小説です。