前回の続き。今回からでも読めます

『素粒子って、何なの?』自分は物理を学んでいる学生なので、自己紹介がてら自分がどんなことを研究しているかの一端を書くことにした。素粒子おいしそう!という方でもどうぞ。自分の研究は、物…リンクameblo.jp


超ひも理論?

超ひも理論は、前回挙げた素粒子理論の大問題、エネルギーと重力の問題を解決する理論。今のところ、この2つの問題を解決する候補としてほぼ唯一と言っていい。


超ひも理論って言葉はあまり研究者の間では使われなくて、超弦理論、弦理論、superstring(すーぱーすとりんぐ)、string(すとりんぐ)などと呼ばれる。これらは大体同じものを指す。超がついてたりついてなかったりするけど、ひもって言ったら大体超のものを考えることが多いので、こうなっている。


超ひも理論は、「超+ひも理論」と分かれる。ひも理論というものがあって、その中で超という性質をもつものが超ひも理論と呼ばれる。
「超」とは何か。超対称性のこと。はい。
超ひも理論というのは、「超対称性を持つひも理論」のこと。
超対称性というのは、素粒子理論ではかなり特別な性質で、色々計算がしやすかったり、数学的に嬉しい性質など色々なものを持っている。詳しく説明しません。

ひも理論って、何なの?

ひも理論は、文字通り、素粒子をひもだと思って、そのひもがどう動くかを記述する理論。エネルギー=細かさだと説明したけど、我々が普段見ているくらいの解像度だとめちゃめちゃ小さいひもは単なる点に見えてしまうが、エネルギーを上げていくと実は構造を持っていて、ひもだった、ということ。

何でひもなの?

ひもは点とは違い、それ自身で振動できる。その振動パターンにより、質量であるとか、そういう性質が異なってきて、我々の目では違う種類の素粒子であるように見える。電子とかニュートリノとかも、同じ種類のひもの異なる振動パターンであった、という感じになる。
前回の言葉で言うと、役者はひも。ひもがどう演じるかを決めるのが、ひも理論であると言える。
ひも理論は、なんと言っても、エネルギーの制限がない、という特徴がある。これは、基本的粒子が点ではなくひもであることの最大の長所だと言える。
なぜひもだとエネルギーの制限がないのか?「無限大」を避けられるから。
「点」というのは、大きさが無限小。この無限小に起因する、無限大という問題が、点粒子には付きまとう。物理学者はこれをどう処理したかというと、エネルギーの低いところだけを考えて、「もっと高エネルギーでは(つまりもっと細かく見れば)解決してるはずだ」として、見ないことにした。この見ないことにする技を「くりこみ」と呼ぶ。
当然、全てのエネルギーで通用する理論を作りたい場合には、見ないことにするわけにはいかない。ひものように、「広がりをもつ素粒子」という考えはここらへんから生まれたらしい。
もっと知りたい人は「くりこみ理論」とかでググるといいかも

5つの超ひも理論

当然、ひもの動き方には色々あり得る。さらに、許されるひもの振動パターンというのも人為的に決められる。というわけで、ひも理論には種類がある。
数あるひも理論の中から、人間がどのひも理論を選ぶのか。当然、現実世界に合う理論である。

現実世界に合う、とはどういうことかと言われると、実はけっこう難しい。難しいのだけど、めっちゃ基本的な条件を考えるだけで実はかなり絞れる。それは、
1.確率は、0以上1以下の値を取る。
2.この宇宙は(比較的)安定である。
この2つの条件から、(人間の知る限り)候補は5つに絞られる。これらはいずれも超ひも理論である。というのも、安定性という問題(タキオン)を解決するのが超対称性だから。弦理論と言ったら大体超弦理論を指す、というのはこういう事情。

名前はどうでもいいが、type I, type IIA, type IIB, Heterotic E8×E8, Heterotic SO(32)という5つ。

結局正しい理論はどれなの?

分からない。分からないことだらけ。

理由の1つは、超ひも理論が豊かすぎる構造を持っているため。これは超ひも理論の面白いことでもあると思うけれど。人類は超ひも理論について全然分かっておらず、全然絞り込む段階にない。
もう一つの理由は、そもそもこの5つ以外にないという保証がないから。ひも理論というのはめちゃくちゃ豊かな構造を持っているので、(絞られる、とか書いたが)本当にこの5つ以外にないのか?と言われると怪しい。
また、実際にこの世界がひもであるかは分からない。現状人間が知っている候補がひも理論しかないだけで、賢い理論がどこかに転がっている可能性を否定できない。
本当に検証しようと思ったら、ひたすらエネルギーを高めて実験するしかない。この分野は完全に理論が先を行っている。

豊かすぎる超ひも理論

ひも理論の研究者は、分からないね、と言ってふらふらしているわけではない。ひも理論は、物理学者を魅了してやまない、豊かで面白い構造を持っている。そしてその豊かさは、素粒子に留まらず様々な分野へと影響を与える、「弦理論」という分野を形成している。

①10次元の世界

ひも理論と言えばこれを聞いたことある人もいるんじゃないだろうか。ひも理論は、物理理論の中で唯一、この世界の次元を指定する。
10次元というのは、時間1次元、空間9次元。超ひも理論は、ひもの振動する方向が空間9方向でないと理論が破綻する。

我々の知っている世界は空間3次元。当然、残りの6次元はどうなっているのかという疑問が湧く。答えは、「とても小さく丸まっていて見えない」ということになっている。めちゃくちゃ小さいひもが振動できるだけのスペースはあるが、人間には見えない。
6次元分丸まっていて、残りの4次元が我々の知る世界となる。この丸める操作により、10次元の理論から4次元の理論が作れる。
ではどのように丸まっているか。これが、ひも理論が豊かな構造を持っている原因の一端となっている。
丸まり方はざっくり言って6次元の図形の数だけある。そしてその丸め方により、4次元に残る理論は変わってくる。つまり、1つの10次元の理論から、無数の4次元の理論が作れる。
さっきと同じように、残った4次元の理論の基本的な条件、もっともらしさというものを考慮すると、絞れるのだが、はっきりいってよく分かってない。6次元の幾何学がそもそも難しい。

その中で注目されているのが、カラビ・ヤウ多様体と呼ばれるもの。カラビ・ヤウ多様体というのは、ある性質を持った図形の総称で、固有名詞ではない。
カラビ・ヤウ多様体の何が良いかというと、6次元をカラビ・ヤウ多様体で丸めた超ひも理論は、超対称性を持っているという点。超対称性について何も説明してないので申し訳ないが、先述の通り超対称性があるととても計算がしやすいであるとか、安定であるとか、色々と人間にとって都合がいい。カラビ・ヤウ多様体というのは、数学的にも興味深い対象で、数学と超ひも理論の深い関係の一端となっている。

まあ、カラビ・ヤウ多様体でないといけないというわけではない。超対称性が現実世界にあるかというのもまだ分かっていない。しかし、カラビ・ヤウでない6次元図形によって丸めた理論は、人類にはまだ手が届かない。はっきり言って扱いやすいからカラビ・ヤウ多様体を考えているという節もある。

②双対性

超ひも理論は5種類あると書いたが、実はそれらは繋がっている。もちろんそれら自身は異なるのだけど、そいつらを丸めた理論は同じになることがある。
例えば、Heterotic E8×E8を円で丸めて9次元にした理論と、Heterotic SO(32)を円で丸めて9次元にした理論は一緒になる。IIA理論をあるカラビ・ヤウ多様体で丸めた理論と、IIBをまた違ったあるカラビ・ヤウ多様体で丸めた理論は等しくなると考えられている。

このような、不思議な理論の一致を双対性と呼ぶ。
なぜ一致するのか。分からない。むしろ、人間は、その(偶然とも呼びたくなる)一致を足がかりとして、「超ひも理論とは何なのか?」という問いに答えようとしている。

11次元の世界

一致を説明する自然なストーリーとして、「5つの超ひも理論は、実は同じ理論の異なる側面を見ている」というものがある。1つの10次元の理論から色々な4次元の理論が作れるように。

そのようなストーリーで出てきた、M理論と呼ばれる理論がある。M理論は11次元。1次元分丸めることで、10次元の超ひも理論が色々作れる、ということになっている。
M理論はひも理論ではない。ひも理論は10次元でなければいけないから。丸めた結果として、ひもが出てくる。そういうことになっている。
M理論はひも理論以上によく分かっていない。
よく分からないということが、よく分かったのではないだろうか。