「キャプテン、上杉達也さん。先輩たちがいなくなっても、うちが勝ち進めると思いますか」
池田孝行新キャプテンは孝太郎くんからタッちゃんに目を移した後、南に目を向けて話し終えた。
「この二人は黄金バッテリーだからね」
新キャプテン、温和だけど厳しい表情。南の茶化しにのってくれなかった。池田新キャプテンが言いたいこと、南も見当ついてた。
「浅倉さんも気づいてるはずです。今年の明青の甲子園初出場、そして初優勝、それは上杉和也、カッちゃんのお陰だってことが」
「池田くん…」
南は名前を呼びかけるだけで精一杯だった。そして池田くんは羨望のまなざしで孝太郎くんに目を向ける。
「もちろん昨年僕が入部してからの明青野球部の実力は本物です。だから全国制覇もそんなに驚きませんでした。しかし松平キャプテン」
そこで池田くんは発言を促すように、一呼吸置いたのです。
「なんだ池田」
孝太郎くんの戸惑いの返答に、池田くんは嬉しそうに笑った。でも後で確認したけど、それは自分の意見を自慢したいからじゃなかった。
「それは上杉和也、あいつと一緒に、今度こそ甲子園という感傷の賜です」
そう厳しく言った後、今度はタッちゃんに目を向けた。
「柏葉監督はベンチに上杉和也の湿疹を飾るのはお前ら、部員の感傷だけだと言いましたね」
「ああ…」
タッちゃんもどう答えていいかわからないみたいだった。
「そして上杉達也がめった打ちされるのを見たい、俺がいなきゃ甲子園なんか行けるもんかと上杉和也が思ってると」
「ちょっと池田…」
柏葉監督を貶めたいのか、タッちゃんを妬んでるのか、南も池田くんを嫌いそうになってた。
「でもそれがどうだといんです。確かに達也先輩は上杉和也の亡霊に苦しんだようですが、そして松平先輩も浅倉南さんも上杉和也とは旧知の仲だったようですが」
そして池田くんは防止の庇を下げ、目を伏せたのです。
「甲子園終わってから電話しましたよ。三年の先輩たちに」
そして再び顔を上げてくれたけど、それはやさしさに溢れた諦めの表情だった。
「浅倉さん、まるでマンガの主人公じゃないですか。存命だったらきっと人気、実力を兼ね備えたプロ野球選手ですよ」
「池田くん…」
南にもやっとわかった。池田くんの言いたいことが。でもまた私たち三人の顔が見れなくなったか、今度は天を仰いだのです。
「無念を晴らすにはまたとない偶像、そんな偶像のない名声が予選勝ち続ける訳ないじゃないですか」
「池田…」
今度はタッちゃんが呟いた。でも決意を固めてるような池田くんに、やはり続けて言う言葉はなかった。実際、池田くんの次の表情、確信と自信があった。
「でも見ててください。踏ん張って見せますから」
そう言って池田新キャプテンは練習に戻って行ったのです。