上下巻だし上巻でも595頁あるため読了での感想は初めの方の印象を忘れていると思い、
200頁ほど読んだ時点で備忘録として記述。とはいえ主人公になるはずの千葉繁の子供時代なので、
物語としてはまさに「序」。実際、二巻物だったことを失念して一緒に買った下巻は、第二部の途中と、
第三部からなっているから。あとは作者あとがきと佐藤優による解説を収録。

 扱う時代は特高警察が登場する昭和前期。展開される物語は宗教弾圧だけど教団側が主なので、
提示する問題は組織の運営と私は理解。既に千葉繁が駅のホームへ降りる時点の前に、教団幹部は、
一度検挙されている。つまり次は学校運営をと勢力拡大し続けた組織が初めて体験する、
権力による妨害に遭った後の物語。様々な人物を紹介しつつ、「派閥」の認識の違いを描写。

 千葉繁が入った(実質「出家」)時代の教主は二代目だけど、「一代目の経典」を自在に解釈する、
柔軟な考え方を持ち。教団内の幹部以外の信徒たちとの接し方は威厳というよりも、好色な冗談で、
人を和ませていて。でも人が多いと認識を同じくする集団が内部に複数出来るのは、全ての組織が、
たどる展開というもの。本作も教主を含む幹部と長老、青年部、婦人部が(多分)伏線として描写され。

 教団が拡大は女工が多数信者になったのが理由で、成り行きから当地の政治に影響を与えることに。
しかし千葉繁が入会した後の幹部の逮捕で、各々の「派閥」の教団に対する考え方の違いが、
露わになるのですね。長老は政府や国家への批判は自嘲した方がいいと考えるが、青年部の人間は、
教団が培ってきた信頼の問題と認識し。結局は非暴力の示威行動で難局を回避。

 幹部の逮捕は労働争議の問題とも絡んだものですが、キリスト教系などが支援していたのに、
当の教団の行動で事態が収まったために、教団は教会からも批判されてしまう。教団内部は他に、
教主と婦人部の人との会話を面白く読み。多分教主への恋愛に似た感情が入信の理由なのに、
教主自身は教団内での男女関係を推奨を。婦人部の人は怪訝な思いを持つのでした。

 以上のように本作は組織運営を語るのに綿密に構成された話だが、実は物語の展開も教団の名称、
さらに教義も作者の高橋和巳のでっち上げ。以下はあとがきでの高橋自身の述懐というもので。

 発想の端緒は、日本の現代精神史を踏まえつつ、すべての宗教がその登場のはじめには色濃く持っている〈世なおし〉の思想を、教団の膨張にともなう様々の妥協を排して極限化すればどうなるかを、思考実験をしてみたいということにあった。

 「極限化」、「思考実験」とはSFの一つの巨大な役目であり、小松左京の影響を憶測してもいいと、
私は捉え。正に自民党以外の政権与党を考察する私が今読みたい話で、千葉繫が長じた後の第二部、
さらに第三部を今から期待するところ。でも200頁でも話の進みは遅いので上下巻でも妄想として、
二時間強の映画にできるのでは。


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