相対論の思考過程の考察にはもう一冊、『アインシュタインの思考をたどる』があるけど、
本書は「奇跡の年」の他の論文との関連から考察した一冊。根拠にする証拠は、
一人目の妻マリッチへの結婚前の手紙などの書簡、さらに『アインスタイン教授講演録』所収の、
アインシュタイン自らの証言など。

 著者は奇跡の年の三大業績(ブラウン運動、光量子論、特殊相対性理論)以前の六本の論文で、
アインシュタインの研究の首尾一貫さを示す。

第一論文と第二論文は液体や溶液が示す具体的な性質を論じることによって、分子どうしが引き合う引力(分子間力)の本質を探ろうという試みであった。そのために、多数の分子の凝集や拡散を論じている。
(18ページ)

 第三論文から第五論文までの三つの論文は、統計的三部作と呼ばれている。それは、多数の分子の集団を統計的手法で扱う「統計力学」を、さらに一般化する試みであった。すなわち彼は、光や電磁波のように力学が通用できない対象までも、統計的手法で扱える「統計熱力学」を構築したのである。 

第六論文は彼の博士論文であって、「分子の大きさの新しい決定法」と題されている。(中略)溶液の粘り気の程度を表す量(粘性係数)と、解けている物質分子が溶液中へと拡散する速度を表す量(拡散係数)とを、彼の「統計熱力学」を用いて計算する。(19ページ)
さらに、
運動する物質分子を座標原点にとって、流体の運動を記述する方程式(粘性流体方程式)を説く。その際、その方程式の形が座標原点のとり方に依存しないという「ガリレイの相対性原理」が用いられた。(19ページ)
と解説を。ガリレイの相対性原理は特殊相対性理論の二本柱の一本。さらにブラウン運動の理論と、
光量子論も統計熱力学を適用したと記述している。以下にはアインシュタインの科学の思想や哲学が、
<ドイツにおける「化学熱学的伝統」>に則った態度であると結論付け。

 後段の「3章 相対性理論をめぐる論争」では特殊相対性理論までの科学史を概観し、
アインシュタインの独自さの程度を定義。続く4章では双子のパラドックスを扱う。一方で、
一般相対性理論の(1907年から1915年だから)8年にわたる苦難の歴史の詳述は無いが、
アインシュタインの考え方を知る、一級品の新書。