同じ著者の『死都日本』と選択を迷ったけど、切迫している東海(含む東南海)地震が先決と、
本書をまず買ったのでした。でも震災を奇貨とする完全犯罪という着想自体は良かったはずだけど、
犯罪の理由と過程に頁を費やしたため、震災自体の記述は蔑ろになっている。なのでエピローグで、
地震後の情況を付け足しても、本書の結論のための方便というのが私の見方で。
結論にしても大人が読んで唸るほどの物ではない。結論が当たり前のものなら言葉にしないのが、
作劇の鉄則かと。また本作は登場人物の台詞を借りて、また地の文という書き手の本音で、
著者の石黒の愚痴が多すぎると思うのですね。内容については私も同意するけど戯(げ)作者なら、
物語り手として失格の烙印を押したく。
また地震直後の完全犯罪を山場にしたために『M8』と同じ欠陥、物語として面白い政治の失敗を、
描いていず。むしろお上の視点の方が震災を広く捉えることができるので、以前の予想と違い、
『M8』の方が小説として完成された物。しかし震災前の政治の暗躍をもっと書き込み、
地震以降の政治と震災の状況を関連させれば、『日本沈没』への肉薄も可能だったはずであり。
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