ヘッドギアを付けていない原田、ストレートで相手を一撃。スパーリングの相手、ロープに吹っ飛ばされる。
呆然のボクシング部の面々。達也も。
(部長の声)「ようし、今日はこれまで!」
ボクシング部部室。達也、原田以下、着替えている部員たち。目を腫らして絆創膏の痛々しい達也、
制服に着替えながら。
「なんだよこりゃ」
原田「おまえは少し殴られる必要があるのさ」
達也「なんだよ?」
原田「出なきゃ、おまえからは殴らねぇだろが」
達也「なんだ?」
原田「大した意味はない」
着替え終わった原田、部室のドアを開ける。見守る達也に被る、ドアの閉まる音。
達也のボクシング部、和也の野球部、練習風景。
ボクシング部のランニング。大分遅れて状態を傾いで走る達也も。
(南の声)「ヘーイ、どうしたどうした!」
達也、胸を張って走る。
見守る南。
「ファイト…」
天気、雨。教室に入る南。
「カッちゃん、孝太郎くん。今日の練習お休みよ。新入部員のためだって、監督が」
松平孝太郎「あ、ほんと! 話せるなあ、優しいなあ」
南「その代わり明日からは日曜も祭日もないと思えって」
孝太郎「あ、ほんと! 前の台詞なかったことにして下さいね」
教師「それでは放課後までにノートを提出すること」
(日直の声)「起立、礼!」
達也、自分のノートをめくり、南に声を掛ける。
水飛沫をあげて通り過ぎるセダン。歩道を歩く南と、すれ違う。明青学園高等部、達也たちのクラス、授業。ノートへの落書き見つかる達也、教師に叱られる。野球部練習風景。
「予選大会まであと6日」。
(達也の声)「お手」
新聞のスポーツ欄、西条高校のピッチャー、寺島の紹介。夕刻。達也が腰を落としてかざした右手にパンチの後ろ足。達也とパンチ、取っ組み合い。
(南の声)「こら、パンチをいじめるな」
制服姿の、南と和也。
達也、パンチを指さして、
「可愛い気がないんだよ。性格が飼い主なんだから」
南「何々!」
達也、和也の正面に行き、
「1回戦の相手、青華高だって?」
和也「うん」
達也「楽勝だな」
和也「そんなことわからないよ」
達也、和也に軽く右ストレートしながら、
「のわりには、自信たっぷりなんだよ」
パンチを和也、鞄で受ける。
(南の声)「お手」
(パンチの声)「オン」
しゃがんで出した南の右手に、パンチもしゃがんで、前足を乗せる。
南「可愛い可愛い。飼い主に似て本当に素直なんだから」
舌を出している達也に、鞄、飛んでくる。
南「じゃあカッちゃん、お風呂から出たらマッサージしてあげるからね」
和也「うん…」
南、達也のそばに転がっている鞄、取り上げる。南、背を向けるが振り向いて、
「じゃあね、タッちゃん」
南、舌を出した後、正面を向き、家に上がろうとする。
達也「熱にうなされやがって」
和也「誰が?」
達也「うんにゃ。早く風呂入ってマッサージしてもらいな。可愛い素直なマネージャーに」
上杉家。両親の前で南にマッサージされる、和也。風呂に入っている達也。
野球部の練習風景。
喫茶店『南風』、正面。店内の時計、2時前。呼び出し音が鳴る、店内の電話。達也、受話器を取り上げて、
「はい、南風!」
(南の声)「あ、タッちゃん?」
(達也の声)「てめえ、なにやってんだよ! 練習はとっくに終わったんだろが!」
南「うん、試合が近いから無理しないようにって、お昼で」
(達也の声)「こっちは大変なんだぞ! こんな日に限って混みがるんだ、この店は!」
南「だけど…まだ帰れないよ。」
(達也の声)「なんでだよ」
南「止めないんだよ、カッちゃん一人」
ランニングする和也。
(南の声)「絶対南を甲子園に連れていくって。自分ひとりで投げぬくって。南の夢を叶えるのに他人の手は借りたくないって」
南「それを放っておいて帰る南でいいの?」
達也「嘘だよ。こんな店に客がそんなに来るわけねぇだろ。大丈夫だよ一人で」
南「本当に?」
達也「ああ勝手に和也に付き合ってろ。じゃあな!」
達也、乱暴に受話器を切る。騒がしくなる店内。
南、静かに受話器を切る。ランニングする和也の姿も。