今日の「一応、洋画劇場」はあの古典的な名作をご紹介しましょう。
主人公はある中年男。まあ、一目見ても太っておりますなあ。歩くたびにお腹も揺れる。
この男、仕事を終わって家路に着き、いちばんの愉しみは一杯のビールとつまみです。
これが一日の疲れをいやす。いやあ、何とも幸せだなあ、一人つぶやきます。けれども実はビールは一杯では終われない。三杯くらいは飲まないと満足できない。つまみもたらふく。
だから太るんですなあ。
けれどもある日、男は定期健診を受けます。
お医者さんから言われます。
「あんた、このまんま、塩気の強いつまみとビールがんがんやっているとダメですよ。しばらくガマンしなさい」
「え、先生、どうしてですか」
「だって、あんた、ここのこの数値はとんでもないものになってますよ」
「じゃあ、先生、ビールじゃなければ何を飲んだらいいんですか、塩気の強いつまみじゃなければ何を食べたらいいんですか」
男は率直に訊きます。
先生は答えますなあ。
「ビールでもノンアルがあるでしょ。それに塩気の強いつまみ、あんた何食べとるの」
「塩漬けのカタクチイワシが好きです」
「あんなもの食べたらいかん。ノンオイルのツナ缶にしとき。それも醤油や塩かけたらいかんですよ」
その日から男はノンアルビールとつまみにはノンオイルのツナ缶の毎日を送ります。
けれども、ああビール飲みたいなあ。塩漬けのカタクチイワシ食べたいなあ。
男は強く強く思いますね。夜、寝てからも夢にまで出て来るんですなあ。ビールビールビール。イワシイワシイワシ。
ある日、トボトボと家路に着く。
その道すがら、居酒屋のガラス越しにお客の飲んでる姿が嫌でも目に入る。
ああ、ビール飲んどるなあ。油っこい、塩気強いつまみ食べとるなあ。
けれども自分は飲めない、食べられない。
よおし、運動して節制して暮らして行こう。そうして、いつか先生にいい検診結果を渡して、ビールも浴びる程飲んでいい、塩漬けのカタクチイワシもたらふく食べていい。
そう言われるまでガマン、ガマン、ガマン。
男の横顔には強い決意がにじみますなあ。
そうして夜空にはにこにこ顔でビールを飲んで塩漬けのカタクチイワシをつまむ幸せそうな男の姿が浮かんでます。
揺れるくらい出っ張っていたお腹も引っ込んでる。
そこに理想がありますなあ。
さあそんなわけで、もうお分かりですね。
塩漬けのカタクチイワシはアンチョビといいます。
この映画のタイトルはズバリ「禁じられたアンチョビ」です。
「禁じられた遊び」ではありませんよ、くれぐれもお間違えないようにお願いしますね。
それではサヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。