新聞の書評には「出版に関わってひと悶着あった」云々とあったから、てっきり書かれたすべてが実はフィクションで・・・というオチがあるものだと思い込んでいた。
しかし、どうやら事実であることは疑いないらしい。
モーテル経営者が中古のモーテルを買い取ってリフォームした当初から覗き穴を作り、以来、十数年?にわたって客たちを覗き続け、それを克明に記録して来たという事実である。
まあ、その当人から聞き取り、私的記録を読み込んだ上で、著者が一部分も引用しながら書き上げたスタイルになっている。つまりは、その当人を分析、描写する著者の筆力が試されるわけだ。その意味ではノンフィクションだろうがフィクションだろうが、はたまた一部フィクションが混じっていようが、はっきり言ってどうでもいいのである。
このテの本は、「自己暴露の文学」と対置されていい「他人に対する覗き」の文学である。
いわば、デバガメである。しかも、性に関する実態が中心になる。性事にまつわるフィクションなら、「覗き」そのものではないが、谷崎の「鍵」や「瘋癲老人日記」も同じようなものだ。文学的価値は知らず、一度くらいは読みたくなるシロモノだろう。もっと遠慮なく言えば、谷崎のこの二作にしても、一体、文学的価値がどれだけあるのかどうか極めて疑わしい。本書もその同列に位置すると思う。
なお、本書の中で、デバガメ = 出歯亀 という語に、ピーピング・トム = peeping tom とルビが付けられていた。調べてみたら、「覗き見するトム」という、そのままの語があると知った。