妻の帰宅を俺は気がついていた。
時計を見ると1時15分。
俺は息子の涼の寝息を聞きながら、髪を撫でた。
この涼だけは俺が守る!
妻の動きは手に取るように分かった。
洗面所から水音がした。
化粧を落として、歯を磨いているのだろう。
水音が止まった。
寝室のノブが下がった。が、ドアは開かなかった。
俺が鍵を掛けていたからだ。
汚れた身体といっしょ
にいられるわけがない。
「ねぇ、鍵かけてるの?」
ドア越しに小さく妻の声がした。
俺は無視を貫いた。
妻が詫びるように言い訳を言った。
「ごめん。
話が盛り上がって遅くなっちゃったの。
…
聞いてるの?ねぇ?」
俺は何も声を発しなかった。
この女は今日だけで一体何回俺に嘘をついた?
いつからこんなに平気で嘘がつけるようになったんだ。
しばらくの沈黙の後、妻はあきらめてその場を離れた。
俺は怒りで眠れなくなった。
眠れぬ夜を過ごして朝になった。
覚悟が決まった。
クローゼットからキャリーバックを引き出し、息子と自分の着替えを詰めた。
まだ、眠りから覚めない息子を抱き抱え、俺は寝室を出た。
妻はソファに毛布にくるまって寝ていた。
俺に気づいた妻は慌てて飛び起きた。
「何?どうしたの?
何処行くの?」
俺は無言で玄関に向かった。
妻が押し留めるように立ち塞がった。
「何怒ってるの?
夕べ遅くなったのは謝ったでしょ!?
悪かったわ。
でも、だからって家出て行くつもりなの?
そんなことで…」
俺は妻の言葉を遮って言った。
「昨日の8時頃だった。
ノンコちゃんと話した。
旦那さんが出張?
家でテレビ観てたよ。
ノンコちゃんの相談事?
飲み会?
今から家族で家族風呂行くって言ってたなぁ〜。
家族団らんで羨ましかったよ。
本当に羨ましかった。
嘘ばっかりの偽物の家族のウチと違ってな。」
俺は妻を除けて玄関を
後にした。
しばらく実家に過ごす事にした。