その9<目立ってしまうのは仕方ない?>
世の中には、
誰かのために生きることがいい場合の人と、
思いっきり自分の信念を貫いて生きる方がいい人の
二通りいるんじゃないかなと思う。
いずれにしても、
前者は『誰かの為=自分の喜び』でもあるし
『自分の信念=誰かの喜び』になるので、
結果は同じなのだけれど。
犬と猫みたいだね(笑)
ちなみに前者が犬で後者が猫。
自分はどっちなんだろう?
2019年3月21日
「渡辺学 弾き語りライブ」
m/c 2500円
ということで、また例の話の続きを
その9<目立ってしまうのは仕方ない?>
その翌週から研修で入り、3回目くらいの時期だったろうか?
「そろそろ一人で撮影できるでしょ?」とメインカメラマンとして式場に送り込まれることになった。
式場でのお作法や、マネージャー、介添えさん、司会者などのそれぞれの立場や役割に関して、まだすこし把握しきれていないところはあったが、いい写真を撮る自信だけはなぜか人一倍あった。ただ、撮影に夢中になると前に出過ぎてしまうことがあって「あなた、目立つんだからダメよ」と介添えさんから注意されることが多々あった。しかし、注意して来る介添えさんは特定の介添えさんで、ほかのカメラマンやスタッフも要注意人物としていつも気を使っている人だった。
式場での撮影もだいぶなれて自分のスタイルが見えてきた頃、撮影後に詰所に戻ると僕宛に、例の要注意人として知られる介添えさんから内線が入った。
「なべちゃん、柳田さんが来て欲しいって言ってるけど…」
「え?なんかやったかなぁ?」
「今すぐ、今日撮影したお二人の控え室に来て欲しいって」
「じゃ、ちょっと言って来まーす」
僕は何か粗相したかな?と思いつつ、急ぎ足で介添えさんと二人が待つ控え室に向かった。
「おまたせしました」
例の介添えさんが控え室の扉の前で待っていた。
「お二人がどうしても直接お礼をお伝えしたいというのでおよびたてしました」
「そうだったんですか」
控え室に入ると、着替えを済ませたお二人は笑顔で僕を迎えてくれた。
「今日は本当にありがとうございました。お陰様で、とても楽しい一日になりました」
「こちらこそ、お二人の大切な日に立ち会わせていただいてとても光栄です」
「あの…これ」
そう言って、新婦さんが僕に小さな祝儀袋を手渡した。
「ほんの気持ちです」
「いや…」
僕はためらいながら居ると、介添えさんが「お二人の感謝の気持ちですから、受け取りなさい」と、僕に言った。
「では、遠慮なく頂戴いたします」
「よかった」
「これから二次会ですか?」
「そうなんです、カメラマンさんも来られます?」
「すみません、まだ少し仕事が残ってるもので」
「そうですか、改めて今日はありがとうございました」
「どうか、末長くお幸せに!」
「ありがとうございます」
控え室を出ると、介添えさんが笑顔で近づいてきた。
「本当に、お二人喜んでいらっしゃいましたよ」
「そうなんですか?」
「カメラマン、あの人でよかったね、とずっと言ってましたから」
「それはうれしいですね」
「これからもよろしくお願いしますね」
「はい、よろしくおねがいします」
それから僕の写真が某結婚情報誌に使われたりして、会場の支配人や例の要注意人物の介添えさんの対応が変わった。前もって、どこで写真を撮りたいのかや、なにも言わなくても列席者をまとめてくれたりした。それからはとても撮影しやすい環境になった。
この頃の僕は音楽から全く離れていた。このままプロカメラマンとして生きていくのもいいだろうと思っていた。歌を歌っていたことなどカメラマン仲間に話すこはなかったし、忘年会などでカラオケにいっても自ら歌うようなことはしなかった。
ただ時折、披露宴の余興で歌う歌や、仕事で歌いに来ている人たちの歌を聴いて、ここで今僕がマイクを奪い取って歌ったらきっとびっくりするだろうなぁ、なんて思うことはあった。自意識過剰といえばそれまでだが完全に音楽を、歌を、自分の中から消すことはできなかったのも事実だった。
その10につづく
