学パロです。
失恋したのに余裕ぶっちゃう先輩由依さんと、失恋したのに健気な後輩ひかるちゃんです。
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私の好きな人は今日、失恋したらしい。
ずっと片想いしていた相手に想いを伝えて、「他に好きな人がいる」というお決まりの言葉で振られた。
そして、その光景を私は見てしまった。
ただ昼休みに、体育館前の自販機にジュースを買いに来ただけだったのに。
「好きです。」
って、真っ直ぐに想いを伝える由依さんを、私は目撃してしまった。
由依さんに好きな人がいることはなんとなく勘づいていたし、特段驚くこともなく。
由依さんが振られて、自分にもチャンスが回ってくる!と喜ぶわけでもなく。
体育館の壁に隠れて、ただ呆然と事実を静かに受け入れた。
密かに期待していた、由依さんの好きな人が私であればいいな、という願いが脆くも崩れ去っただけだ。
「ごめんね。急に変なこと言っちゃって。気にしないで。」
由依さんは振られた後も、笑顔だった。
でもその笑顔は強がってるだけだって、誰が見ても明確で。
告白相手が立ち去った後、由依さんは俯いて顔を両手で覆った。
さすがに泣くよね、って思ったのも束の間。
由依さんはすぐに顔をあげ、自分で自分の頬を叩いた。
まるで溢れ出る感情を無理やり飲み込むかのように。
そして由依さんは大きく深呼吸をすると、歩き出した。
あ、こっちに来る。
そう気づくのが少し遅かった。
慌てて体育館の壁に張り付いて姿を隠そうと試みるも、由依さんにはバレてしまっていたらしい。
「ひかる!?どうしてここにいるの?」
驚く由依さんの声に、私は「あっ…!」と思わず声を漏らした。
頭をフル回転させ、必死に言い訳を探す。
「えっと、壁に張り付いて忍者ごっこ…?してました。」
自分でも何を言ってるのか分からないほどの稚拙な言い訳に、由依さんは真顔のまま立ち尽くしていた。
しばしの沈黙が2人の間に流れる。
怒ってる。怒ってるよね。
ただでさえ、今の由依さんはメンタルボロボロなはずなのに…!
何か言わなきゃ。
そう思って絞り出した言葉もまた、火に油を注ぐことになる。
「あ、由依さん、カラオケ行きましょ。」
話題を変えて誤魔化そうとする。
私なりの方法で励ましたいという想いも、もちろんあった。
でも由依さんは、それを無視して問いかける。
「もしかして、今の見てたの?」
「カラオケが嫌なら、ゲーセンとかでもいいですし。パーっと遊びましょ!」
「ひかる!質問に答えて?見てたの?」
真剣な眼差しで問い詰める由依さんに、私は誤魔化しきれずに
「…見てました。一部始終…。」
と、全てを白状した。
「いや、違うんです。ただジュースを買いに来たら、偶然見ちゃっただけで…。」
私は言い訳を並べる。
「……。」
由依さんは相変わらず無表情のまま、私を見つめていた。
ああ、だめだ。
何を言っても怒られる。
「すみませんでした…!」
どんな謝罪会見よりも深いお辞儀をして、私は謝った。
頭を上げるのが怖い。
どんな顔で私のことを見ているのだろう。
そう思った矢先、由依さんは「ひかる、頭を上げて。」と優しい声色で言った。
恐る恐る頭を上げ、由依さんの顔を見る。
「別に怒ってないから。」
そう言って優しい笑みを浮かべる由依さん。
私は心底ホッとして、ヨタヨタと体育館の壁にもたれる。
「怒ってると思った?」
「はい。殴り殺されるかと。」
「私どんなイメージなのよ。」
「だって、真顔だったから。」
「ただ、カッコ悪いところ見られちゃったと思って恥ずかしかっただけ。」
そう言って由依さんは気まずそうに笑った。
「カッコ悪くなんかないです!」
私は間髪入れずに答える。
「あんなにまっすぐ想いを伝えられる由依さんが、カッコ悪い訳がないです!めちゃくちゃカッコよかったです!」
思っていたことを言葉にして、正直に吐き出す。
私は由依さんの、まっすぐで、カッコよくて、芯の強いところが好きなんだから。
あの瞬間、私も同時に失恋したはずなのに。私はあの瞬間に、由依さんのことをもっと好きになったんだから。
ってのは、さすがに心の中に留めたけど。
とにかく、あの行動をカッコ悪いなんて思わないで欲しかった。
「ありがと。そう言ってもらえると、私の行動は間違ってなかったって思える。」
由依さんは切なげに微笑んだ。
そして目を閉じて唇を真一文字に結ぶ。
まるで、また何かを堪えるように。
どうして我慢するの。
私の前だから?
私が後輩だから?
「由依さん、泣きたかったら泣いてください。」
後輩のくせに生意気だって思われるかもしれないけど。
由依さんから溢れ出る気持ちを、私が受け止めてあげたかった。
辛い気持ちを、少しでも楽にしてあげたかった。
だけど…。
「もしかして、励まそうとしてくれてる?」
由依さんはまるで小さい子どもに話しかけるように、私に問いかけた。
「だって、由依さん辛そうだから。」
「大丈夫だよ。私案外落ち込んで無いから。ありがとね。」
そう言って、私の頭をポンポンっと優しく撫でた。
良い子だねって、大人が子どもをあやすかのように。
それが何だか苦しくて。
私じゃ何も出来ないのかな?
由依さんから見たら私は、子どもなのかな。
私は由依さんのことを励ますことすら出来ないのかな、って。
私はただ、好きな人に幸せになって欲しいんだ。
好きな人には笑っていて欲しいんだ。
無理な笑顔じゃなくて、心からの笑顔が見たいんだ。
私は報われなくたっていい。
でもせめて、そのお手伝いくらいさせてよ。
「由依さん。私じゃ役足らずかもしれないけど、私由依さんのこと励ましたいです。由依さんの辛さ、減らしたいです。」
ただの我儘なのかもしれないけど。
由依さんのこと、支えたかった。
すると由依さんは
「じゃあ、学校抜け出しちゃおっか。」
と悪戯に笑った。
真面目な由依さんからそんな提案が出ると思わなくて、私は思わず口を開けたまま固まった。
「嫌?」
と首を傾げる由依さんに、私は全力で首を振った。
「嫌じゃないです!抜け出しちゃいましょう!パーっと遊びましょ!!」
「あー、でも、カラオケとか今気分じゃないから…。海、行かない?」
「…海、ですか?」
「失恋した時って、何故か海行きたくなるのよ。」
そんな由依さんの提案通り、私たちは海に行くことになった。
こっそり学校を抜け出して、私の自転車に2人で跨る。
漕ぐのは私。
由依さんは後ろに乗って、私の腰に腕を回した。
「お前らー!!どこ行くんだぁぁ!!」
教師の怒鳴り声が後ろから聞こえたけど、もちろん無視だ。
冷たい空気を切って、私は自転車のペダルを踏みしめる。
ハンドルを握りしめる手は冷たいのに、顔は火照って熱い。
背中には由依さんの体温。
激しく暴れ狂う心臓が全身に血液を回す。
それは由依さんが後ろで密着してるからなのか、自転車を全力で漕いでるからなのか。
分からないけど、おかげで寒さを全く感じなかったのはありがたかった。
私たちは一言も喋らず、ひたすら海へと向かう。
少しの背徳感と共に、このまま私だけの由依さんにならないかな、なんて想いが溢れ出てくる。
報われなくたっていいなんて言っておきながら、やっぱり欲というものはあるらしい。
叶わない恋なのはわかってるけど、この状況で願わずにはいられなかった。
今だけ、許して。
今日だけ。
今日が終われば、明日からは先輩と後輩の関係に戻るから、と。
30分程自転車を漕ぐと、波の音が聞こえてくる。
海岸沿いを自転車で走りながら、海を眺める。
真冬の海には誰もいなかった。
スカスカの駐車場に自転車を停め、私たちは砂浜へと降り立った。
「寒っ。」
と呟く由依さんに、私は自分の着ていたコートをかけた。
「ひかる、寒くないの?」
「自転車漕いだんで熱いです。」
「えー、でも汗冷えるよ?」
「大丈夫です。由依さんが風邪ひいたら私が悲しいので。」
「じぁあ、お言葉に甘えて。」
そう言って由依さんは、私のコートに包まった。
「あー、なんか心が浄化される感じする。」
由依さんはまっすぐ海を見つめる。
寄せては返す波の音と海風が吹き抜ける音だけが響く。
由依さんの鼻は赤く染まり、目は少し潤んでいた。
寒さなのか、それともほんとに泣きかけているのか…。
「私ドライアイだからさ。目が乾燥しちゃって逆に涙が…。」
今もなお強がる由依さんの目から、ぽろっと雫が溢れた。
由依さんは私に涙を見られないように上を向いて指で頬を拭うけど、それでも止めどなく涙が溢れてきている。
「……。辛いですよね、失恋って。私も最近失恋したから、気持ち分かります。」
たったさっき、私も一緒に失恋した。
気持ちを伝えることも出来ないままに。
胸がどうしようもなく苦しくて。
私はこんなにも好きなのに、あなたは違う誰かを想っていて、苦しんでる。
こんなに近くにいるのに、遠くにいる気がしてしまう。
「ひかるも失恋したんだ…。じゃあおんなじだね。」
私の気持ちを知らない由依さんはきっと、私が由依さん以外の誰かを好きで、失恋したものだと思ってる。
「ひかるも辛いのに、私を励まそうとしてくれてたんだね。ありがとう。」
そう言って由依さんは、私の頭を引き寄せて腕で包み込んだ。
私はスッポリと由依さんの胸の中におさまる。
その瞬間、張り詰めていた糸がプツンと切れたように、涙が溢れて止まらなくなってしまった。
違う。私が由依さんを励ますためにここに来たのに。
私が泣いてどうするんだ。
そう自分に言い聞かせるけど、一度崩れた涙のダムは止まることを知らない。
「よしよし。辛かったね。」
優しく背中を摩ってくれる由依さんの手が余計に、切なさを増幅させる。
私の好きな人は、私じゃない誰かを想いながら、私を励ましてくれている。
叶うことのないこの想いをどうすればいいのか分からない。
でもごめんなさい。今日だけ。
由依さんの胸の中で、思いっきり泣かせて欲しい。
今日は少しだけ、甘えてもいいよね?
私はしばらくの間、由依さんの胸の中で泣き続けた。
由依さんはずっと私の頭を撫でてくれていた。
数分後。
涙がおさまって、私はそっと由依さんから離れる。
「スッキリした?」
「ごめんなさい。由依さんを励まそうって言って来たのに、私が泣いちゃった。」
「ううん。いいの。私も何だか、ひかるのおかげでスッキリ出来たし。」
そう言う由依さんの顔を見上げると、目は真っ赤だった。
「由依さん、やっぱり泣いてたんですね。」
悪戯っぽく聞くと、由依さんはまた強がった。
「もらい泣きってやつ?ひかるが泣いてるの見たら私も泣けてきちゃって。でも泣いたら少し吹っ切れた。」
嘘つけ。
私が泣く前から泣いてたくせに。
って思ったけど、由依さんの心が晴れたらならそれでいいか。
「なんか広い海と空見てると、悩みとかどうでも良くなっちゃうね。」
由依さんは海に沈む夕陽を眺めてそう言った。
夕陽に照らされる由依さんの横顔は晴れやかで、ここまで来た甲斐があったなと思う。
「ヘックション!!」
ふいに、私は大きなくしゃみを出した。
「ひかる、やっぱ寒いんでしょ?」
「寒くないです!……ヘックション!!!」
「ほら〜!コート返すよ。これ着てちょっと待ってて。」
そう言って由依さんは私にコートを着させると、どこかに走り去っていく。
「えっ、どこ行くんですかー?」
走っていく由依さんの背中に問いかけるも、聞こえてないのか由依さんからの返答はなかった。
私は1人で冬の砂浜に取り残される。
すぐに、由依さんは戻ってきた。
「はい、これ飲んで温まったら帰ろう。」
そう言って由依さんはホットココアを私の手に置いた。
「え。ありがとうございます。」
行動がいちいちイケメンな由依さんにまた、キュンとしてしまう。
嫌いになれたら楽なのに。
好きな気持ちは高まるばかりで余計に苦しい。
私はそんな自分の心を誤魔化すように、ホットココアを開けて口に流し込む。
暖かくて甘ったるい液体が身体の芯に染み渡り、心まで温かくなっていく。
隣では、由依さんが缶を両手で持って、チビチビとココアを飲んでいる。
そんな由依さんがまた可愛くて。
ああ、いつか私に振り向いてもらえたらいいなぁなんて欲がまた顔を出す。
好きだって気持ちを抑えても、出てくるばかり。
誤魔化そうにも、こんなに好きなんだから仕方がない。
「ひかるはさぁ、結局誰が好きだったの?」
唐突に爆弾を落とされて、私はココアを喉に詰まらせた。
咳き込んで、少し溢れたココアを拭き取る。
「き、急にどうしたんですか!?」
「いやだって、私の好きな人をひかるは知ってて、私はひかるの好きな人知らないの不公平じゃない?」
ど正論だ。
ど正論だけど、私には言えない事情があるのだ。
目の前にいるのだから、私の好きな人は。
ついさっき失恋したあなたのことを、私は好きなのだから。
今、私の想いを伝えれば、由依さんはきっと困ったような表情で"ごめんね"と言うんだろう。
困らせたくはない。
好きだから。
今のままの2人で笑って過ごす方が、きっとお互いのためだ。
それならば。
私は想いを飲み込んだ。
好きな人には笑っていて欲しいから。
「絶対、言いません。秘密です。」
私がそう言うと、由依さんは
「えー!何でよ、教えてよ。」
って頬を膨らませて拗ねる。
「恥ずかしいです。」
「まぁ、ひかるが言いたくないならこれ以上は聞かないけど。」
「はい。聞かないでください。」
私がそう言うと、ジトーっと私を見つめる由依さん。
「いつか見破ってやろう。」
そう言って由依さんはからかうように、穴が開くほど私を見続ける。
その視線が恥ずかしくて、私は思わず口を滑らした。
「いつか言いますよ!だから、そんなに見ないでください…!」
言った後に、「あっ。」と口を手で押さえる。
いつか言うってことは、告白することを宣言したようなものだ。
「あ、いや、その。」
しどろもどろになる私に、由依さんは何かを察したのか
「冗談だよ。」
と笑った。
「無理に言わなくていいよ。ひかるがこの失恋を笑って話せるようになってから、また教えてよ。」
そう言って由依さんはまた、私の頭をポンポンっと優しく撫でた。
またもや、由依さんに一歩リードされたような気がするけど。
いつか、由依さんが私に振り向いてくれる時が来たら。
その時は___
「帰ろっか。帰りは私が漕ぐよ。」
いつだって大人な対応をする由依さんに、私は変なところで対抗心を燃やした。
「いや、私が漕ぎます!」
「おっ。じゃあお願い。」
「任せてください。」
行きと同じように、私の腰に由依さんの腕が巻きつく。
「しっかり捕まっといてくださいね!」
そう言ってペダルを踏み込む。
学校に着けば、私たちはいつも通りの先輩、後輩の関係に戻る。
実は、行きより少しだけゆっくり漕いだのはここだけの秘密だ。