【妄想ガール】
眠らぬ街のシンデレラ~廣瀬遼一&…~




妖かしの夜⑤



それからしばらくすると、


「廣瀬様、ポーカーの準備ができましたので会場へどうぞ」


係の人が知らせに来る



「どーれ、ちょっと行ってくるか」

「はい」


私たちは、グラスを飲みほして席を立った



×  ×  ×  ×



会場に着くと、私たちを見つけた皐月さんが近づいてくるのが見えた


「遼一、マリアさん!」


私は、軽く会釈した

顔をあげると、皐月さんの後ろに二人の男性が見えた


「紹介するよ、こちらはオーランド、そしてこっちがアントニオだ」
「私の父の代からの付き合いでね、ビジネス仲間なんだ」



皐月さんがにこやかな笑顔で言うと、後方にいた長身でモデルのような外国人男性が微笑んだ


「ハジメマシテ」

「ハーイ、アナタノゲーム ベリースバラシカッタデス」

「ありがとうございます、初めまして廣瀬です」


遼一さんも微笑みながら、二人の男性と軽く挨拶を交わし、握手をした



「そしてこちらは、遼一の彼女の………」

「あっ……」


皐月さんが、私を紹介しようとしたところで、遼一さんが突然肩を抱き寄せた


「妻のマリアです」

「えっ…なっ…」
(…ちょ…遼一さん!? 今…ツ、ツマ……って言った……?)

「ほら、ちゃんと挨拶しなさいよ」


耳元に唇を近づけ、小さな声で囁く


「あ、は……はじめまして……妻のマリアです……」


「オー、カワイイヒトデスネ、オニンギョウノヨウデス~」

「ユア ワイフ イズ ビューティフル!」



「い、いえ、そんな……」



社交辞令だとは分かっていても、なんだか照れてしまう

遼一さんは、そんな私をいつもと変わらぬ表情で見ていた


(もう、遼一さんってば……)


恥ずかしさとともに、くすぐったい感じが胸を掠める
「妻」という響きに、言いようもない嬉しさがこみ上げ、頬が熱くなるのを感じていた


傍から見れば、誰もがその場は、今から始まる熱き戦いなど微塵も感じさせないほど、和やかな空気に包まれていたに違いなかった


けれど……

ただその光景を、感情を押し殺したまま表情一つ変えずじーっと一点をを見つめる瞳があることに、その時はまだ誰も気付いていなかった







⑥につづく…