【妄想ガール】
眠らぬ街のシンデレラ~廣瀬遼一&…~
妖かしの夜④
「それじゃあ、準備ができたら知らせるよ」
「それまでは、ゆっくりしてくれてていいから」
そう言うと皐月さんは、バーテンダーに何か告げてその場を去って行った
私はその皐月さんの後ろ姿に、なんともいえない違和感を感じたような気がした…
けれど……
その時はまだそれがなんなのか…まったく知る由もなかった
「……遼一さん、大丈夫ですか?」
「ん? ああ……大丈夫だろ」
「…んだよ、そんな心配そうな顔して…」
いつもの余裕の笑みで微笑みながら、私のおでこを指で弾く
「いたっ…な、何するんですか!」
「そんな、辛気臭い顔すんなって、勝利の女神が……逃げるでしょうが…」
「えっ?」
「今日は何か負ける気がしない…だからお前は笑ってオレの傍にいなさいよ」
「…遼一さん…」
「ほら、心配すんなって、たかがポーカーだろ……」
「早く終わらせて、せっかくの皐月さんの好意に甘えないとな……」
そう言ってニヤニヤと私の手の中にある、カードキーに目をやった
「もう、遼一さん!」
「………でも、そうですよね、エグゼクティブスイートなんて……楽しみです」
「こちら、オーナーからです、どうぞ…」
私たちの会話の途切れるのを待っていたかのように、バーテンダーがグラスを差し出す
「え……」
皐月さんが気を利かせたのだろう、目の前には綺麗な色のカクテルグラスが2つ並んでいた
「今日のために特別に考えられた、オーナーオリジナルのカクテルです」
「皐月さんが!? ご自分で考えたんですか…?」
「はい、ぜひお二人にも…ということでしたので」
(……そういえばさっき……バーテンダーの人に何か話していたけど……もしかして、これのこと?)
「あ、ありがとうございます」
「皐月さんがね~珍しいな……」
「……で、これの名前は?」
「ポーカーフェイス」
「ほう、なかなか洒落たネーミングじゃねえの…」
「まるで、オレが今からポーカーやるって知ってたみたいだな……」
「まさか……」
遼一さんを見ると、ふと何か考えるようにグラスを手にとり眺めていた
「あ、女性にはアルコールの匂いが少しきついので、こちらのシロップを1滴……垂らすようにと……」
バーテンダーは小さな小瓶に入った液体を、私のグラスに1滴落とした
すると、甘い香りがしてくる
「美味しそうですよ、遼一さん」
「ああ」
そして私たちは、グラスの中で琥珀色に煌めくポーカーフェイスをを傾けた
⑤につづく…