④はこちら・・・☆



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期間限定☆有馬志信とバレンタイン 




                   








「あの、一口飲ませてくれませんか…?」

「お前に?」


私の言葉に志信さんが目を丸くする


「……けど、お前には少し強いかもしれないぞ?」

「大丈夫です、ほんの一口だけですから…」

「そうか……なら…」



ふいに微笑んだかと思うと、志信さんは何故か自らグラスを煽った



「…志信さん?」

「お前には、これくらいで十分だ」


言われている意味が分からずに首を傾げると、伸びてきた志信さんの手が後頭部に回る
後ろ髪を指策に絡ませながら差し入れられた手に、力強く引き寄せられた


「あ、あの……?」

「直接飲むには、お前には強すぎるんだよ、この酒は……」
「味見したけりゃ、オレにキスしろよ」
「…それだけで十分、味も香りもわかるはずだぜ?」

「なっ……!?」


思いもよらぬ提案に、瞬きも忘れて志信さんを見つめた


「な、何言ってるんですか……」

「味見したいって言ったのは、お前の方だろ?」
「望みどおり、味見させてやるって言ってんだぞ」


後頭部の手にさらに力が込められ、少しでも動けば触れてしまいそうなほどの距離に唇が迫る


「ほら、遠慮すんなよ」

「――――っ」


志信さんが囁くたび、味わったことのないアルコールの香りが鼻孔をくすぐる
知らないお酒への興味からか、それとも志信さんに触れたい衝動からか……
私はそっと志信さんの頬に手を添え、自ら唇を重ねた


「……そんなんじゃ、わからねぇだろ…?」


ハハッと可笑しそうに笑って、今度は志信さんから仕掛けるように唇が重なり、舌先が唇を割って押し入ってきた


「んんっ……」


先ほどとは比べものにならないほどのアルコールの香りがした
塞がれた唇から香りが、鼻を通って抜けていく……

志信さんの言うとおり、独特の強い癖のあるフレーバーのあとに、強い甘みも感じられる不思議な味わいだった


「どうだ?」


唇を離し、満足げに瞳を細めた志信さんがそう聞いてくる


「……やっぱり、こっちの方がいいです……」


カクテルグラスに伸ばしかけた手をやんわり包み込まれ、今度は穏やかな笑みが志信さんの顔に浮かべられる


「ああ、知ってる……」
「……けど、もう少し味わってみろ」
「何度か試せば、くせになる味だ」

「それは……」


キスをせがむような言い回しに、さらに頬がカッと熱くなる


「……じゃあ、もう一口……」

「いくらでも味見させてやるよ」


そのウィスキー味のキスに、今度こそ完璧に酔わされてしまった………





×  ×  ×  ×




そして……とうとうバレンタイン当日を迎えた


「……できた!」


今日まで改良を続けたチョコが完成した

『美味しいけど無難な味…』と言われていたチョコの決め手は、志信さんの好きなラフロイグでアクセントをつけたガナッシュにした


(志信さん……気づいてくれるかな?)


志信さんの喜ぶ顔を想像するだけで、幸せな気持ちに満たされた


(今日は別店舗でバレンタインイベントの準備があるって言ってたから……)
(早めに完成させて手伝いに行こう)


ワクワクしながらガナッシュをチョコレートに入れる作業をしようとすると、』テーブルの上の携帯が、着信を知らせて震えた


「もしもし……」

『オレだ』

「志信さん!」

『お前、今何してる?』

「えっと……お店でイベントの準備の手伝いを……」

『…そこはスタッフに任せて出てこい』


言葉を濁しながら、今は手が離せないこととを伝えた


「もう少ししたら行けると思います」

『……そうか、じゃあ、今から迎えに行くから支度しておけ』

「え!あの、志信さ……」



最後まで言い終わる前に、電話は一方的に切られてしまった



(志信さんが着く前に、仕上げなくちゃ……)




意気込んだ瞬間―――


誰かがお店に入ってくるのが分かった


(志信さん!? まさかもう着いたの!?)

「こんにちは、マリアさん」

「……なんだ、冬太くんかぁ」


ホッとして無意識に口にした言葉に、冬太くんが苦笑を浮かべる


「なんだ、とは……失礼しちゃうな~けっこう傷ついたかも……」

「ご、ごめんなさい…」
「変な意味はないの………」


頭を下げると、いつもの明るい声が降りかかる


「冗談だよ、からかってゴメン……」
「でも、マリアさんからのチョコは欲しいな…」
「そのために立ち寄っただけだし……」

「そうなの? ちょっと待ってて」


目の前に手を差し出した冬太くんの手に、先日買ったチョコの包みをのせた


「ちぇっ、やっぱり俺のは手作りじゃないのか……」


ガッカリする冬太くんは、チラリと作業台に目をやり、一瞬にして瞳を輝かせた


「もしかして、これって余り?」


指差す先には、成形に失敗したチョコレートのかけら……


「そうだけど……」

「ラッキー! じゃあ、ひとつもらいっ!」

「ああっ!……もう冬太くんったら……」

「いいじゃん、志信さんの分まで食べさせようって言うんじゃないんだからさ」

(志信さんの分は確保してあるし……いっか…)



子供のように無邪気にチョコを頬張る冬太くんを見ながら、つられて笑ってしまった




×  ×  ×  ×



「なんだよ、あいつ…」
「ここの手伝いなんて俺は聞いてな・・・・・・」


呟きかけて、有馬の視線が一点で停止する


「……冬太?」

「あっ、志信さん!」



店の扉の前で今まさに店に入ろうとした有馬と、店から出て来た冬太が鉢合わせた



「なんだよ、何か用だったのか?」

「まぁ、ちょっと…ね」
「でも用事はもう済んだから帰りまーす!」

「そうか、気をつけてな……」



鼻歌混じりの冬太の様子に首を傾げ扉に手をかけようとした有馬は、
すれ違いざま、冬太の口から信じられない言葉を耳にすることになった



「マリアさんのお手製の本命チョコ、ごちそうさまでした」

「……は?」



内緒話をするように囁かれたその言葉を……
有馬は聞き間違いだったのでは…と、冬太を振り返る



「じゃ~ね~志信さん!良いバレンタインを!」


言葉の真意を聞こうとしたその時にはもう、冬太は早足で雑踏の中に消えてしまった


「……チッ、ふざけやがって…」


苛立ちを含む独り言をもらす


「アイツの本命は、俺だけだろうが…」


有馬の呟きが、雑踏にかき消される
いつもより荒々しく扉を開ける有馬は、まだ知らなかった

この後に待ち構える何より甘い、バレンタインの夜を………





≪⑥につづく…≫




イケない契約結婚
(C)Arithmetic




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志信さん、バレンタイン…

甘いですね~~!


味見……これ、ヤバいですよね~~
もう、キスだけでも蕩けちゃうのに……
ラフロイド味なんて……

しかも、お約束の人前……

(志信さんは、人前で…好きなんだよね~やっぱり……)


次はいよいよ、GEとPEです!

どんな甘い展開になるのでしょうか……・