③はこちら…★




期間限定★白金総司とバレンタイン





                          







「あっ、沢渡くん!?」

「また、あいつか?」


携帯のディスプレイには、今別れたばかりの佐渡くんの名前が表示されていた


「す、すみません、あとで………」

「いや、今でればいい…」


言っているそばから……とでも言いたげに瞳を伏せ、総司さんは呆れたように告げた




「もしもし、どうしたの?」

『いや、実は……カフェで書類を広げた時、お前のレシピが俺のファイルに入り込んでしまったみたいで……』

「えっ……!?」

『…まだ近くにいるから、良ければ今から届けるけど……白金さん、大丈夫そうか?』

「う、うん…大丈夫だと思う…」



いくら事情を知っているからといい、そこまで気をつかわせてしまったことを申し訳なく思いながら電話を切り、総司さんに向き直った


「まだ何か用だったのか?」

「それが……」
「佐渡くんが、私のものを間違って持ち帰ってしまったみたいで……」
「…今から引き返して届けてくれるって言うんですが……」

「………そうか」


意外にもあっさりそう言われたことに安堵しながら、エレベーターのボタンに手を伸ばそうとする



「待て」

伸ばそうとしたその手を、やんわり止められてしまった


「あ、あの………?」

「そうういうことなら、オレが受け取りに行こう、…お前は先に部屋に戻っていろ」

「えっ!?」
「で、でも……私のものなので・・・・・・


「いいから、言うとおりにしろ」

「……は、はい……」


強めの口調で言われてしまい、それ以上反論する事は出来なかった


(ど、どうしよう……!)



×  ×  ×  ×




「ただいま」

「……おかえりなさい」


少しだけ遅れて帰宅した総司さんを出迎えながら,どう切り出すべきか迷っていた


(レシピが見られてたら……お菓子教室のこともバレちゃってるよね……)

「総司さん、あの……」

「ほら」

「え……」



目の前に、見慣れない一枚の封筒が差し出される



「これだろう?お前の忘れ物とやらは…」

(あ、佐渡くんが封筒に入れてくれたんだ!)

「あ、ありがとうございますっ!」

「………」



総司さんにまだバレてないことが嬉しくて…つい、大喜びで封筒を受け取ってしまった
そんな私の姿を見て、総司さんが一瞬目を見張る


「…そんなに大切なものなら、忘れたりするな」

「あ、はい……」


総司さんは私の髪の毛をスーッと撫で、スーツの上着を脱いだ
その上着を受け取りながら、私は総司さんの顔を見上げた


「あの……」

「ん? なんだ?」

「本当にありがとうございました」

「………そんなに大事なものだったのか?」

「はい、それはもう!」

「……だったら、なおさら忘れたりするな」

「今度から気をつけます」

(こんなんじゃ、バレンタイン前に総司さんに気づかれちゃうかも……本当に気を付けなきゃ…)



意気揚々とキッチンに向かおうとした私の腕をふいに総司さんに捕まえられた


「ずいぶん機嫌が良くなったな?」
「さっきまで…この世の終わりのような顔をしていたのに」

「そ、そんな顔してましたか・・・・?」

「ああ……原因はその封筒か?」



総司さんが封筒を指さし、ニヤリと笑う


「……秘密です」

「へぇ~」


感心するような口ぶりでも、総司さんの顔にはそんな感情が一切表れていない
むしろ、見透かされてしまいそうなほどの強いまなざしに、まっすぐにとら捉えられてしまった


「オレ以外の男と秘密を共有するとは、いい度胸だな」

「そ、そんな……佐渡くんは関係ありません」

「そうなのか?」
「……あの男に、封筒の中身は絶対に見るなと釘をさされた」

「えっ……」
「それはきっと……プライバシーに配慮してくれたんじゃ…?」

「他の男と共有できて、夫のオレとは出来ない……」
「いったいそれは、どんなプライバシーなんだ?」


クイッと顎を持ち上げられ、正面から見つめられる
全て見透かすような鋭い視線が注がれた


「そ、それは……」

(どうしよう……下手にウソをついたら余計バレちゃうだろうし……)



総司さんの鋭い眼差しを前に、思わず言葉に詰まってしまった



「言えないのなら………」

「きゃっ!?」


手にしていた封筒が床に落ちる音が聞こえ、気づけばあっという間にソファに押し倒されてしまっていた



「無理矢理にでも白状させてやろうか?」

「ちょっ、そ、そんな……総司さん、待ってください!」
「……何をされようと、本当のことは言えません!」

「………」



そう強く言い返すと、総司さんの動きがピタリと止まった



「随分と、強情なやつだな…」

「なっ……なんと言われようと、絶対教えられません!」
「……どうしても聞きたいっていうなら、少し待ってください」

「……待つ?」



総司さんは目を細め、真意を探るように私の瞳を覗き込んだ



「…今はまだ言えないんです」
「いずれ…総司さんにバレることになると思いますけど……今は、まだ………」

「………」



黙って話を聞いていた総司さんは、スッと体をどけた



「そこまで言うなら待ってやろう、お前がオレに…その秘密とやらを打ち明ける時を……」

「はい、その時が来たらちゃんと話しますから」

「その時が来たら、か……かなり意思は固いようだな」

「えっ…?」

「いや、何でもない」



総司さんは笑みを浮かべているものの、どこか違和感を感じた
笑っているようで笑っていない、そんな笑顔をしていた
それでもすぐにいつもの冷静な表情に戻ると、私の手を取り起こしてくれた


「シャワーを浴びてくる」

「あ、はい……その間にご飯の準備をしちゃいますね」



封筒を拾い上げて胸に抱くと、総司さんはかすかに眉間を寄せた


「……総司さん?」

「あ……頼む……」

「はい」



総司さんはそれ以上何も追求せず、シャワールームへと向かった






≪⑤へつづく≫





イケない契約結婚
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