②はこちら…★




期間限定★白金総司とバレンタイン




                          







(教室の人、みんないい人ばかりだったな~)


私はカフェで昼食をとりながら、今日から始まったお菓子教室を振り返っていた
バレンタインまでに数個のレシピを実践で学びながら、最終日にオリジナルチョコを完成させる


(今日作ったチョコは…総司さんには甘すぎるかな~?)


そんなことを考えながら……
私は貴重なレシピを何度も読み返し、コーヒーを口にはこんだ



「…お前、お菓子教室なんて通ってるのか?」

「えっ!……あ、佐渡くん!?」


突然、声をかけられて振り向くと、佐渡くんの姿があった



「ここ、いいか?」

「う、うん」


向かいに座った佐渡くんは、テーブルに広げていたレシピを興味深そうに手にとった



「なんだか甘そうなレシピばっかりだな…」

「バレンタイン用だから…」

「バレンタイン?」


思いがけない言葉だったのか……目を丸くしながら佐渡くんが顔を上げた



「ああ……そういえば、そんなイベントもあったな」

「そんなことも忘れちゃうくらい忙しかったの?」

「ああ……今日だって、この近くの取引先で朝から今まで会議だったんだ…」

「そっか、お疲れさま」

「……ありがとな、お前にそう言われるだけで、なんか癒されるな」

「もう、調子のいいことばっかり言って……」
「……おだてても何も出ないんだからね」

「……な~んだ、残念!」

「もう……相変わらずなんだから!」




久しぶりに会った元同僚の佐渡くんとの会話がすっかり盛り上がってしまい、鞄の中の携帯に、何度も着信があったことに気付かなかった…





「忙しいのに、わざわざ送ってくれてありがとう」

「いや、じゃあまた」


家まで送ってくれた佐渡くんにお礼を言ってエントランスに入ろうとすると、後ろから低い声が聞こえた



「あいつと二人で会っていたのか?」

「えっ……!?」


驚いて振り向くと、総司さんが腕組みをして壁に寄りかかっていた


「……そ、総司さん!?」

「何度か携帯に電話したんだが…お前出なかっただろう?」

「え、あ、あの……ご、ごめんなさい・・・!」


すぐに携帯を確認すると、言われた通り総司さんからの着信が何件も入っていた……

ふいに総司さんの視線が、帰ろうといていた佐渡くんに向けられた


「あいつは確か……」


表情や口調はいつもと同じように冷静で、総司さんが今何を考えているのかを読み取るのが難しい


(…も、もしかして、佐渡くんのこと誤解してるんじゃ……)

「ち、違うんです、総司さん!」
「佐渡くんとはカフェでばったり会っただけで……」

「カフェで?」

「はい、今日はバレン……」


言いかけて、ハッとする


(事情を説明したら、全部バレちゃう…)



「……すみません、俺が呼び出したんです」

「なんだと?」


咄嗟に佐渡くんが、私を庇うように前に出た
チラリと視線を送ると、話を合わせるように視線で促される


「ちょっと用があって呼び出したんです」
「そして、俺が無理矢理お茶に付き合わせました」

「佐渡くん……」


事情を知る佐渡くんに何も言い返せない私の姿を見て、総司さんは一つ深い溜息をついた


「マリア、こっちに来い」


グッと腕を引かれ、総司さんに引き寄せられる

見上げると総司さんは眉間にシワを寄せ、怒ったようにも呆れたようにも見える表情で私を見下ろしていた


「あの……」

「……別に怒ってるんじゃない」


そう言いながら、そっと髪を梳くように撫でられる


「これからは、常に連絡がつくようにしておけ」
「そうでないと……」

「……総司さん?」


続く言葉を聞こうとジッと見つめると、総司さんはどこか気まずそうに視線を逸らした


(怒ってるんじゃなくて……心配してくれてたんだ……)

「……総司さん、心配かけてごめんなさい」

「もう、いい」


総司さんの服の裾をつかみもう一度謝ると、それを見た総司さんはもう一度深く溜息をつき、ようやくいつもの笑みを浮かべてくれた


「お前は…しっかりしているようでどこか抜けているからな」
「連絡がつかないと…またどこかでトラブルに巻き込まれているのかと思ってしまう」

「そんな…過保護すぎます」

「俺の大事な妻のことに、過保護になって何が悪い?」

「………」

「その様子だと自覚なしか……ますます放っておけないな」

「うっ…」


事実を言われ、何も言い返せなくなってしまう
総司さんはクスクス笑い私の頬を優しく撫でると、再び佐渡くんに向き直った


「マリアが世話をかけたな」
「ここまで送ってくれたことは感謝する」

「………い、いえ」


数秒間、二人が無言で視線を交えたかと思うと佐渡くんは、さっと頭を下げた



「じゃあ、俺はこれで」

「佐渡くん、送ってくれてありがとう」

「気にするな」



踵を返す背中を見送りながら、咄嗟にフォローしてくれた佐渡くんに何度も心の中で感謝した



「電話、気づかなくて本当にごめんなさい」

「そのことはもういい」

「でも…」

「それよりも、気をつけろ」

「気をつけろ、って……?」



何のことかと首を傾げると、総司さんは意味深な視線を送ってきた



「さっきの男……」

「…佐渡くんが、どうかしましたか?」

「……あまり、オレ以外の男に気を許すな」

「……えっ?」



思わぬ一言に、ついポカンとしてしまう…

そんな私の目をじっと見つめたまま、総司さんが続ける



出歩くな、と言っているわけじゃない」
「オレ以外の人間と親しくするな、とも言わない」
「ただ……」


伸びてきた総司さんの指先が、そっと唇をなぞった


「あまり無防備でいるな、お前は自分のことに無頓着すぎる」

「そんなこと……」

「……男には男の考えている事がよく分かるんだ……お前に同じ感情を抱く者ならなおさら……」



総司さんに、ジリジリと距離を詰められる
あっという間に壁際に追い立てられ、背中に壁が当たった



その時、鞄の中の携帯が着信を知らせて振動した





≪④につづく≫




イケない契約結婚
(C)Arithmetic





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あ~あ、総司さん、妬いちゃった~ね~~

総司さんのためとはいえ、内緒の教室に通っているとなると…
まだまだひと波乱ありそうですね…

それにしても元同僚の沢渡くん…
いつも当て馬的な役回りなんだけど…今回も…かな~
でも、とっさに気をきかせてくれたり…
きっとまだ、ヒロインのこと好きなんだろうな~~
切ないね~沢渡くん……