続編☆白金総司


第12話:契約から、約束①(HAPPY END)







「はい」


総司さんはその問いかけに頷くと、お祖父様の視線が、私に向けられる



「はい」



「そうか、わかった」


お祖父様は瞳を伏せてから微笑むと、離婚届から手を離し腕を組んだ



「それは、お前たちの手に委ねることにしよう」

「わしが処分してやるようなものではないからな」




×  ×  ×  ×




総司さんは常務の穴埋めのためにも、すぐに仕事に戻ろうとしたのだけれど……

それは、お祖父様に止められてしまった



「お祖父様の言う通り、たまには息抜きも必要ですよ」


「……それは、分かってる」

「だが……落ち着かないな」


「神様がくれた、休息だと思いましょうよ、ねっ!」



総司さんはその言葉に、一瞬だけ微笑むと

私を見つめ、一枚の紙を胸の高さに掲げた



「それ、って……」

(私の名前だけが書いてある離婚届……)



「いらないよな? こんなもの、俺にもお前にも……」

「一生、必要ない」



総司さんは両手で離婚届を持つと、一気に、その紙を縦に破った

紙がヒラリと、総司さんの手から落ちる



「……おいで、マリア」



総司さんは腕を広げていた


私はその胸に飛びこむと、総司さんはしっかりと抱きとめてくれた





×  ×  ×  ×





今日は総司さんの実家で、総司さんの無事を喜ぶという名目の、

親族だけを集めた食事会が開かれている




控え室になっている和室で身だしなみを整えていると、父と母がやってきた



「お義父さん、お義母さん、ごぶさたしております」


「総司くん、このたびは大変だったね」


「いえ、マリアが支えてくれましたから…ご心配をおかけして、申し訳ありません」


「でも、本当に大事にならなくってよかったわね、マリア」


「ええ、お母さん」



「それでは、先にあちらの部屋でお待ち下さい」

「準備が整い次第、私たちも参りますので」



総司さんが私の両親に微笑むと、母は目を輝かせながら父と連れ立って、部屋を出て行った




「……緊張してるのか?」


「披露宴の時は、親族だけってわけじゃなかったから……」


「気負うことはないさ」


総司さんは私の肩に手を置いて、紅い着物に身を包んだ私をじっと見つめた




「……なんですか?」


「……いや」

「成人式みたいだな」


「なっ……」


「はは、そう怒るな、…冗談だ、よく似合ってる




紅い色とはいえ、派手になり過ぎないよう、渋く、上品な紅色を選んだつもりなのに……

不安になって着物をみる私に、総司さんは楽しそうに声を上げて笑った




×  ×  ×  ×






食事会も無事終了し、帰宅すると、

私は緊張の糸が解けたように大きく息を吐いた




「はあ~~」


「お疲れ」


「……はい」


親族一人一人に声をかけ、改めて自己紹介をしていく……

それは、思っていたよりも簡単なことではなかったのだ



「肩でも揉んでやろうか?」



一日中気を張って、慣れない着物で一日過ごしていた私を気遣ってか、

総司さんは私の手を引いて、ソファに座らせた


そして、自分も隣に座るとジャケットを脱ぎ放り投げた



「……あーあ、ダメですよ、ちゃんとしないとシワになっちゃう……」


「いいから」


立ち上がってジャケットをかけようとした私の腕を、総司さんが掴んで引き留めた




「よくないですっ!」


「いいんだよ……」


「もう……」



総司さんがゆっくりと、顔を近づけてくる

私は諦めてそれに合わせるように、そっと目を閉じた


互いの唇が、触れ合う



「いつもありがとな」


彼は優しい顔で私の頭を撫で、微笑んでいる



「……そんな、私こそいつもありがとうございます」


「なあ、マリア、約束をしよう」


総司さんは私を正面から見つめると、私の手を取りギュッと指を絡め繋ぐ




「……もう二度と、たとえどんな理由があろうとも、離婚なんて考えないこと」


「あ、当たり前です!」


「約束するまでもないか?」


首を縦に振って肯定を表すと、総司さんはグッと顔を近づけてきた




「……でも、約束だ」


片方だけ、繋いだ手が解ける


総司さんは指切りをするように、私の小指に自分の小指を絡めた




「……はい」


総司さんは、小指を繋いだままもう一方の手を解くと、私を力一杯抱きしめて、キスをした










≪HAPPY END②につづく≫







「イケない契約結婚」


白金総司(続編)



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