続編☆白金総司


第10話:恨みの枷④






「君の一番大事なものは、何かね?」


「マリアです」


即答すると、待っていたと言わんばかりに、愉しげに喉を鳴らした



「だから君の一番大事なものを、私は取り上げることにしたんだよ」



常務は、不敵な笑みを湛えながら冷たく言いはなった





×  ×  ×  ×





仮眠室に行ったはいいものの、神経が昂ぶって簡単に眠りにつけるはずなどなかった


細切れに眠っては途中何度も目を覚まして、とうとうそのまま朝を迎えてしまった



「……まだ、電話はないんですよね」


会長室に私が足を踏み入れた次の瞬間、電話が鳴り響いた



「各自準備!」

「奥さんは、電話に出てください!」


「…はっ、はい!」


私は急いで執務机に駆け寄り、机上の電話を手にとった



「もしもし!」


『やあ、総司君の大事な奥さん、ご機嫌はいかがかな?』


常務の笑みを含んだ声が聞こえた


私の後ろでは、刑事たちが視線を交わしながら頷いている



「総司さんはどうしているんですか?」


『……気になるかい?』

『せっかくだ、声を聞かせてあげよう』


『……マリア?』


「総司さんっ!」


受話器の向こうから総司さんの声が聞こえて、ホッと胸を撫で下ろす


けれど、総司さんはどこか苦しそうな声色で……


『……やめろ』


「え?」


『俺は…お前と離婚なんてしたくない』


何を言い出すかと思えば、総司さんはまるで嘆願するような声で続けた



『例え形だけだとしても……お前と離婚だなんて、そんなこと絶対嫌だ』

『……死んでも嫌だからな』


「死んでも嫌って……それじゃ、元も子もないじゃないですか!死んじゃったら…」


『……そうかもしれないな』


「それに、総司さんが死んでしまったら……白金グループはどうなるんですか!?」


『それはなんとかなるだろう……』


「無責任なこと言わないで下さい…っ」



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①守らせてください



「私に守らせてください」


『……なに?』


「私に、総司さんを守らせてください」

「……総司さんが会長になる前、私は何度も危険な目に遭いました」

「でも……そのたびに、総司さんは助けてくれました」

「私だって、総司さんが危険な目に遭うのなら……方法がどうであれ、あなたのことを守りたい」


『……マリア』



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②愛してるんです(5UP)



「あなたのこと、愛してるんです」


『俺だってそうだ……だから……』


「総司さんだったらどうしますか?」

「もし、私と同じ状況だったら……どうしますか?」


『それは……』


「それが、答えです」

「私は、あなたを守れるのならなんだってします」



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③あなただってそうするでしょう



「あなただって、そうするでしょう?」


『俺が……?』


「もし、私が捕らわれている立場だったら?」


『それは…当たり前だ』

『俺はお前のことを、失いたくない』


「私だって同じなんです、総司さん……」


『……マリア』




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声がつかえそうになりながらも何とかそう言うと、電話相手が変わってしまった



『ふむ、君はよっぽど愛されているんだね』

『まあ、そんなことはどうでもいいことだがね……さっそく、本題に入ろうか?』



―――――



「どうだ、逆探知は?」


「ダメです、何か阻まれているようで……」


「解析を急げ、そう何度も電話はかかってこないぞ」



小さな声で交わされている捜査員の会話が耳に入る


どうやら、総司さんがいる場所の特定が思うようにいっていないみたいだ



(お願い……)

(できるだけ、電話を引き延ばさなくちゃ…)


「……ちょっと待ってください」


『待てないよ』

『居場所の特定を急がれたら、たまらないからね』


(ばれてる……)


『君がちゃんと、指定時間どおりに指示に従ってくれるのなら、総司くんに危害は加えないよ』

『さて、離婚届は用意したかな?』


その声に振り返ると、壁にもたれかかった有馬さんが、ヒラリと一枚の紙を掲げた


「……はい」


『もう、書いたかい?』


「……まだです」


『それじゃ、記入箇所を漏らすことのないように記入してくれ、ああ、時間稼ぎに記入漏れなんてしてくれたら……どうなるか、わかるね?』


「……はい」


(まだ居場所の特定ができないのかな……?)


常務の言葉に、だんだん焦りが増してくるのが伝わる


けれど、捜査員からは、解析に苦労している声しか聞こえなかった



『書き終えたら……そうだな、14時に東京駅の改札に来ること』


「……改札、ですか?」


『ああ、あとそれと……2億円を用意すること』


「にっ……2億円ですか!?」


『君らならそれくらい。簡単に用意できるだろ? 話はこれだけだ、じゃあ また後で…』


そして、声を返す間もなく、電話が切れた







≪つづく≫







「イケない契約結婚」


白金総司(続編)



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