続編☆白金総司
第10話:恨みの枷①
『聞こえていたかな、白金マリアくん…』
常務が楽しそうな声で繰り返す、総司さんを解放するための条件
「私が、総司さんと……離婚…」
『ああ、ちゃんと聞こえていたようだね、…そう、君と総司くんの離婚』
『君がちゃんと離婚届を書いてくれれば、すぐにでも総司くんを解放してあげよう』
「そんな……」
『……そうだな、明日の昼前までには、離婚届を用意しておくようにね』
『…また、連絡するよ』
プッ――
「……っ」
電話は、無情にもあっけなく切れてしまった
通話を保留にしていた携帯電話から、着信の音が流れ始め、ビクンと身体が跳ねた
出るか出ないか…少しためらってから、ようやく通話ボタンを押した
『もしもし?』
「花代、さん……」
『なんか、ずいぶん切羽詰まった声だけど…どうしたの?』
「そ、総司さんが………」
私は震えながら、今の常務からの電話の内容を告げた
『そうか…事情はわかったから、―――僕の言うとおりにして、いいね』
『まずは、落ち着いて警察に電話して』
「で、でも……」
『大丈夫、呼んだってバレやしないから、ねっ?』
『たぶん、捜査本部をそこに置くことになるけど、警察にはなるべく忍んで来てもらえばいい』
「……わかりました」
『とりあえず、常務が絡んでいるのは確定なんだね、警察に連絡した後、他に席を外している社員がいないか調べて…』
「…どうしてですか?」
『……決して一人では、できないことだから、だよ』
『買収計画が秘密裏に進められていたということは、彼以外にも協力者がいるとみておかしくない』
『……落ち着いて、行動するように』
「は、はい……」
× ×
「・・・・・・・・・・」
常務の部下と秘書に連絡がつかない
自宅に電話をかけても、誰も出る気配はなかった
どうやら、常務を首謀者とした6人ほどが、今回の犯人みたいだ
そして、総務部から真澄さんも姿を消していたらしい
総務部に行った時には坂部部長が、苛立ちからタバコの火をテーブルで揉み消しているところだった
× × × ×
「今回の捜査は、我々特殊犯捜査係が当たらせていただきます」
「はい……」
「犯人の目処はついている、とのことですが……」
「マリアちゃん――」
たくさんの機械で埋め尽くされた会長室の中に、有馬さんが入ってきた
「有馬さん?」
「この方は?」
「総司の異父兄弟です、有馬志信と言います」
それを聞くと、刑事はすっと引き下がった
「花代から聞いた」
「そう、ですか……」
「安心しろ、こんなこと外部に漏らしたりしないからさ」
有馬さんは瞳を細めて微笑み、私の頭へポンと大きな手を置いた
私はそうされただけで、思わず涙が出そうになった
「それで、常務だったな……?」
「はい……」
「そう、か……あの人が」
「なにか、知ってるんですか?」
「ん? あの人は……総司が小さい頃から、よく世話になっていた人だよ、前会長も、よく世話になっていたしな」
「俺も何度か、顔を合わせたことはあったが……」
「白金家本邸への出入りも多かった人だよ……」
「会長には……」
「そうだな、伏せてくおくことはできないだろうな」
「そうですよね、……とりあえず、今から連絡して伺おうと思ってます」
「離婚届は、警察の方が用意してくださるそうなので……」
私がそう言うと、有馬さんは目を細めた
「……本気か?」
「私は……総司さんの命が、何よりも一番大事ですから……」
私は、有馬さんに笑顔を向けた
「マリアちゃん……」
≪つづく≫
「イケない契約結婚」
白金総司(続編)
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