続編☆白金総司


第7話:差し伸べられた手






「……眼鏡」


「あっ、ごめんなさい」

「……どうしたんですか?」


彼は私をじっと見つめたまま、動かなかった


「そのまま外してくれ」


「はい」


「…テーブルに置いて」


「……はい」


総司さんは、私を抱きかかえたままソファに腰を下ろす

言われるまま、彼の眼鏡をテーブルに置いた


「マリア…」


それとほぼ同時に、総司さんは私をソファに押し倒した


「!?」


「………」


彼は私の腰に抱きつくようにしたまま、無言で胸に顔を埋めている


「そ、総司さんっ……こんなところで…」


少しも動こうとせずに、体重を掛けてくる彼の肩を揺すろうとして気づいた


「……ね、寝てる……?」


私の胸に顔を埋めたまま、総司さんは、間違いなくぐっすりと眠りについていた


(総司さん……)


私は総司さんを抱きしめたまま、そのまま…しばらくの間ジッとしていた

規則正しい総司さんの寝息を感じながら……





×  ×  ×  ×



翌日―――

私たちは料亭の奥まった座敷で、銀行の融資担当者と会食をしていた



「お久しぶりです」


「ええ、本当に」

「急に代表が変わられたから、戸惑いましたよ」


「……その節は、随分とご迷惑をおかけしました」


「正直なところ…あの時には PLTINUM はどうなるかと思っていましたが……」

「…短期間での代表交代は、信用を失いかねない行為でありますからね…」


「返す言葉もありません」


総司さんは、最後の言葉に苦笑した


「あなたの会社に融資をするのに、不満や不安などはないですよ」

「…どうか、これからもよろしくお願いしますね」


黙って二人の会話を聞いていると、担当者の視線が私に向けられた


「それにしても……まさか、奥様が秘書だとは…」


「初めは、私も気乗りはしなかったのですが…」


「いや、むしろお互いのことをよく知っている人間にサポートしてもらえるなんて、とても幸せじゃありませんか」


「……そうですね」

「他の秘書の手も借りてはいますが、確かに、気の置けない相手と一緒に行動を共にするのは、とても仕事がやりやすいものだと気がつきました」


「生活リズムがバラバラになって、家庭内ですれ違い……なんてことも、ないでしょうしね」


(うっ……)


ニコリと微笑まれるけれど、その言葉は今の私たちにはすごく痛かった……


短期間で2度も喧嘩をしたとは言えない……



「ところで、ご予定はないのですか?」


「はい?」


「ほら、お子さんのご予定ですよ」

「まだ会長に就任されたばかりで、そんな時間もないかもしれませんが…」


「……そうですね」


そっと総司さんに視線を向けると、総司さんも横目で私のことを見ていた


「今は仰られたように時間もありませんけど、まあ…あまり遅くならないうちにとは……」


そう言って軽く目を伏せた総司さんは、盃をテーブルのうえへそっと戻した




×  × ×  ×




帰りの車の中で…



子作り―――

さっきのその言葉がずっと頭の中に残っていて、俯く私の目の前に、総司さんがそっと手をかざした


「……どうした?」



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①なんでもない


「えっ?」


「さっきから、ぼーっとしてるだろう」

「……まさか、また何か俺の…」


「ち、違います!」


総司さんの手を押し戻して、顔の前でぶんぶんと手を振った



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②慌てる


「っ……!」


驚いてビクッと体が跳ねると、総司さんも少しだけ息を呑むような素振りをみせた


「……なんだ、そんなにびくついて」


「あっ、いえ、別に…考え事をしていたわけじゃ……」


「俺は、考え事をしていたんだろうとは言ってないが…」


「……あ…っ」



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③照れる(5UP)


「……あはは、その、いや」

「……別になにも」


「……そのわりには、顔が赤いな、それに熱い」


信号が赤になって、車を停めたタイミングで、総司さんは指先で私の頬に触れた




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「どうせ、さっき言われたことでも考えてたんだろう」


(だって…まさか、あんな事までいわれるなんて…思ってなかったんだもの…)


みるみる顔に熱が上がっていくのが分かり、思わず両頬を手で押さえると、総司さんは 歎息をついた








≪つづく≫







「イケない契約結婚」


白金総司(続編)



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