続編☆白金総司
第6話:それでも絶えないもの④
私は有馬さんの電話を切った後、勢いよく会社を飛び出して PLATINUM に来た
慌ててきたせいで、荷物はほとんど持っていなかった
(有馬さんには止められたけど、私だけでなんとかできないかな…)
大理石のエントランスを抜け受付まで来ると、一気に気持ちが引き締まった
「すみませんが、株式会社 PLATINUM の白金真澄様に、白金マリアが来たとお伝え下さい」
香坂さんが迎えに来てくれて社長室まで案内してくれたけど、私の姿を見ると、真澄さんは香坂さんを下がらせた
「香坂下がってろ、用があれば呼ぶ」
「かしこまりました」
もう真澄さんは、私が来た意味をわかっているんだろう
(香坂さんにだって、聞かれたらまずいもんね…)
けれど、香坂さんを下げたということは、彼には内密に話が進められているという証拠だ
(よかった、香坂さんが関わってなくて……)
「何の用だ……と聞くのは、ふっ、無粋すぎるか」
ゆったりとした椅子に腰掛けて、こちらを見る真澄さんは、相変わらず不遜な態度だった
「……そうですね」
「お前なんかが来ても、無意味だぞ」
「もう、先方とは話がついてる」
「もし、この話を覆すことができるとすれば、総司と先方の社長くらいだ」
真澄さんはフンっと鼻を鳴らすと、椅子を回転させて外の景色に目を向けた
「……こんなところに…俺を……」
「…あいつの立ち上げた会社なんかに閉じ込められるくらいなら、総司のライバルだった男の下僕になった方が、マシだ」
「……偽造した書類はどこですか?」
「証拠さえあれば、先方も納得するはずです」
「そんな事をしても、白金グループの権威が落ちるだけだ」
「いいじゃないか、こんな会社など渡してしまえば……」
「……どうせ、立ち上げたのは総司なんだし……こんな物、いくつだって作れるだろう」
「ダメです、そんなこと!」
彼がどれだけ努力を積み重ねて、ここまで来たのか―――、
家に帰る時間は遅く、自らあちこちに出向き、たった一人でこの会社を大きくした
「私は、初めからあなたに任せるのは反対だった……」
(でも総司さんは、初めからこうなることをわかっていたのかもしれない……)
だから、”自分の”会社を、真澄さんに任せた…に違いない
「本当に、煩わしい女だな…」
真澄さんはギシリと、嫌な音をたてて立ち上がると、私の側までやってきて、喉元を強い力で押さえ、そのまま首を締め付けるように、体を壁に押し付けられた
「っ……!」
「お前一人でのこのこ来てさ……自惚れんなよ!」
「お前なんかに、何ができると思って来たんだ?」
「泣いて頼めば、どうにかなるとでも思ったのかよ!」
ギリギリと爪が、皮膚に食い込んでいく
あまりの苦しさに、首元へ伸ばした腕が横に払われ、その勢いに私は床に膝をついた
「帰れ!」
「嫌です!」
「そうか、なら――」
真澄さんに腕を捕らえられ、そのまま無理やり立ち上がらされる
ぐいぐいと引きずられるように……
「い、嫌っ…!」
連れて来られたのは、以前、総司さんに押し倒されたベッドの上、
社長室に隣接された、休憩室と呼ぶによはあまりにも華美な仮眠室だった
「もう二度と面倒なことを言わないように、あんたが、大好きな旦那様を裏切れよ」
「嫌、やだっ…やめて!」
一生懸命もがいて、逃れようと暴れるけれど、男性の力に敵うはずもなく、両手首を纏めてベッドに押し付けられた
足を動かすと、その間を割るように膝が入ってしまい、身動きできなかった
「……おとなしくしろよ」
ムッと顔をしかめて、真澄さんが手首を握る手に力を込めた
「痛っ……」
「あんた、男を見くびり過ぎだろう…」
真澄さんの口角が引き上がり、片手で顎を掴まれる
顔を背けることも出来ずに、ギュッと目を瞑った
「マリア!!!」
次の瞬間、ドアがもの凄い勢いで開いて、総司さんが私の名前を呼ぶ声がした
「なっ!」
仮眠室に入ってきた総司さんが、ベッドに押し倒されている私と、その上に乗り上げている真澄さんを見て顔色を変える
「……っ、おまえ!!」
総司さんは真澄さんの上着を掴んで、そのまま勢いよく、床へ投げるように引きずり降ろす
ドタっと、真澄さんが床に叩きつけられる音が響いた
「マリア! 大丈夫かっ!?」
総司さんがあわてた様子で近づいてきて、片膝をベッドに乗せると私の頬に手を当てた
ボタンのちぎられたブラウスを見て、眉間にシワを寄せてそれを引き合わせる
「……真澄」
総司さんは私の肩を抱いたまま、真澄さんを睨む
とても低い、感情を押しつぶしたような声で名前を呼んだ
「説明しろ!」
「この状況についても、それから、PLATINUM の買収契約についてもだ」
≪つづく≫