続編☆白金総司


第6話:それでも絶えないもの③





総司さんに腕を半ば強引に引かれ連れられてきたのは、近くの公園だった



でも、私たちの間にはベンチに座ってからも、しばらくは重い沈黙が流れていた…

…けれど、花代さんの言いかけた言葉が気になって、私は小さな声で総司さんに聞いてみる……


「……花代さんが、さっき言いかけた言葉が…私にはわからないんです……総司さんの名誉を守るものだって………」

「……それって…?」


「……昨日は…二人でいたわけじゃない」


その言葉に顔を上げると、総司さんは澄んだ瞳でじっと私を見つめていた


「あれは、PLATINUM のCM撮影の打ち上げだ」

「撮影スタッフや、他の出演者も同席していた」


「CM……」


「以前、彼女をCMキャラクターに起用した時、効果がすごかったんだ」

「PLATINUM は俺が会長になってから、業績が緩やかにだが下降線を描いている」

「…だから、再び彼女を起用することに決まったんだ」


「それに……今回のスキャンダルは向こうに火消しをしてもらったから、事務所の関係者がいた手前、彼女の誘いをあまり無下にはできなかった……」

「…彼女にCMの仕事がいくことで、今回はお互いプラマイゼロといったところだろうな……」


「……そう、なんですか!?」


「それにしてもだ、……俺が彼女と二人で外に出たことは、軽率だった」

「また写真を撮られるかもしれないし、第一、俺にはもうお前という妻ががいるのに……」


「総司さん……わ、私………」


「……悪かったと思ってる」

「お前がそうやって怒るのは、無理もない……」

「……すぐに信じてくれなくてもいいから……だから……」


総司さんは硬く握りしめて膝に乗せていた手を開くと、戸惑うようにもう一度握りしめた

そして、それからそっと手を伸ばし―――私の手を握った


「……俺から、離れないでいてくれないか」

「マリア……俺の傍にいてくれないか」


握ったその手に、総司さんがまるで哀願でもするように額を寄せた


けれど、私は彼のその言葉に、すぐに返事をすることができなかった

 



×  ×  ×  ×




総司さんがいない会長室で、私はぼんやりと彼の言葉を頭の中で繰り返していた


(あの言葉が、嘘じゃないのなら……)


総司さんは嘘はつかない…

もし、何か隠し事があったとしても、嘘をつくのではなく、はぐらかす方をとる…


(わかっているのに……)


だけど、信じきれない自分がいる…

モヤモヤとしたものばかりが、私の頭の中を埋め尽くしている


ため息が零れそうになった時、突然、携帯電話が鳴った


「もしもし…」


『もしもし、マリアちゃん?』


「はい、……あ、有馬さんですか?」


いきなり鳴り出した電話にびっくりして、ディスプレイの名前も確認せずに出てしまった


『総司は?』


「……あ、い、今は………ど、どうかしたんですか?」


『……その様子じゃ、お前たちまた何かあったな』


電話の向こうで、有馬さんが深いため息を吐いている

言い淀んでしまった意味を、汲み取られてしまったようだ


「……それはともかく、総司さんなら常務理事のところに」


『……なるほどな……』


有馬さんは、はぁ、とため息を吐いた


『総司には、後でちゃんと俺から話すつもりだが、先にマリアちゃんに話しておくよ』

『前に総司が、オレに封筒を差し出したのを覚えてるだろう?』


「……あ、総司さんと三人で一緒にご飯を食べた時ですか?」


『ああ、そうだ』

『実はあの時に、総司には調べ物を頼まれたんだ』

『……マリアちゃんには、ちゃんと話さないとな…』

『総司より先にマリアちゃんに話したと知ったら、何を言われるかわかったもんじゃないが……』

『この後、俺もちょっと用で出なきゃならないんだ、だから、マリアちゃんから総司に伝えてやってくれ』


「……は、はい」


なんだか神妙な様子で、何度も念を押すように言われて…

私は電話を耳に当てながら、ゆっくりと頷いた


『白金グループ傘下の 株式会社 PLATINUM の買収取引が、花代の会社、株式会社 REFLOW と行われている』


「え? 買収…?」


『マリアちゃんが知らなかったように、総司も、白金グループ本社の人間もほとんどが知らない』

『常識で考えれば、子会社が親会社の同意なくそんなことを進められるなんて、ありえない…』


「でも、取引が行われてるんですよね?」


『そこが問題なんだ』

『どちらにせよ、総司の知らないところで、誰かが手ぐすねを引いているとしか考えられない』


「でも、常務理事たちは……」


『ほとんどが白金の人間だな……』

『だが恐らく、俺はそいつらではないと思ってる』


「どうしてですか?」


『総司が会長に就任した今、もう真澄を祭り上げておく価値はない』

『そもそも常務理事まで上り詰めた人間が、それ以上の地位を望むとは思えない』

『…真澄がそいつの弱みを握って、掌握しているのであれば話は別だが……』


「……公にはできない話なんですね」


『責任を負うのは総司だ……』


「……私、行ってきます、今から PLATINUM に行って、真澄さんに会って…」


『ちょ、ちょっと待て、俺の話聞いてただろ?』

『……こんな大事なこと、恐らく…の段階で伝えるほど、馬鹿じゃないつもりだ』


「それなら、なおさら構わないですよね?」


『…………』


沈黙が降りる


総司さんにもうこれ以上、無理をさせたくない

私ができるのであれば、今すぐにでも真澄さんから話を聞いておきたい


『……あいつは何をするかわからない……』

『総司に会長の座を奪われ、おとなしくなるかと思えばこれだ』

『もう白金では何も求めていないからだと考えると、より極端な行動を―――』


「有馬さん、すみません……電話を切りますね」


『……マリアちゃん!?』

『おい、待て…今の話聞いて―――』


電話から有馬さんの声がまだ聞こえていたけど、早くしないと、という気持ちに急かされ電話を切った









≪つづく≫