続編☆白金総司


第6話:それでも絶えないもの①





「マリア……?」


総司さんは振り払われた手に一度視線を向けてから、私をまっすぐに見つめた


「ひどい……」


握りしめた拳が震えた

それと同時に、総司さんを見つめる視線がぼやっと歪んだ


「この前の写真が……昔のものだって話は嘘だったんですか!?」


「おい、落ち着け!」


「落ち着いてなんかいられるわけないじゃないですか!」


力いっぱい叫びでもしないと、泣いてしまいそうだった

総司さんの言葉も跳ね除けて、ギュッと目を瞑った


(もう嫌だ……)



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①「最低」


「最低です……」


「……違うんだ、マリア」


「何が違うんですか!?」

「この間、写真のことがあったばかりなのに……」

「こんなところを見せられて、信じられるわけないじゃないですか!」


「わかったから、落ち着いてくれ」


「落ち着けるわけないです!」



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②「大嫌い」



「嘘ついてたんですね……」

「総司さんなんて、大嫌いです!」


まっすぐ見据えた先の彼の瞳が、微かに揺れた


「……話を聞いてくれ」


「嫌です!」


「……マリア」


諭すような声で名前を呼ばれて、ズキンとこめかみが痛んだ



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③「私ばっかり」



「私ばっかり、こんな思いして……」


「マリア……?」


「確かに総司さんは格好いいし、背が高くて頭もいいし……私じゃ釣り合わない事なんてわかってます」


「ちょっと待て、何言ってる?」

「オレがいつそんな事……それに、お前ばっかりがこういう思いをしているわけじゃ……」


総司さんは少しだけムッとしたような顔をしていたけど……

そんなの関係ない……



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「総司さんのこと、信じたいのに……っ」


「ねえ、写真ってアレのこと?」


「お前は黙ってろ!」


「黙ってろ、ってなんですか!?」

「彼女が喋ったら、まずい事でもあるんですか?」


「そういうわけじゃ……」


「ちょっと、落ち着いて、あの写真は……」


「いいです、聞きたくないです!!」


腕を伸ばしてきた彼女から逃げるように、身を翻した


 

「あっ……」


後ろから手を掴まれて、力任せに引っ張られ、背中がトスンとぶつかる

その衝撃で、私は総司さんの腕に抱きしめられている事に気づいた


「マリア…」


「………」


足を前に踏み出しその腕から離れようとしたけれど、決して離そうとはせず、総司さんはもっと強い力で私を抱きしめた


「待ってくれ、マリア」


哀願するようなその言葉と同時に、総司さんは私の顎に手をかけ、後ろへと振り向かせる


「……!?」


そして、いきなり私の唇を塞いだ


「……んっ」


「イヤ…っ!」


勢いよく彼を突き飛ばすと、総司さんは呆気ないほど簡単に離れた


私は拳を握りしめて踵を返し、ただひたすら……彼の元から走って逃げた





そのまま家に帰る気にもなれずに、タクシーに乗って実家にやってきた


タクシーの中でボロボロ涙を流して、目を真っ赤にした私を見た途端、

両親は何も聞かずに家の中に迎えてくれた




×  ×  ×  ×




(昨日は結局一睡もできなかった……)



白い大理石が敷き詰められたエントランスを、たくさん緒人が社員証を通して通過していく光景を眺めながら、私はなかなか会社に入っていく勇気がでずにジッと佇んでいた


(まだ時間はある、けど……)


ぎゅっと自分の両手を握りしめたそのとき


「おはよう…」


後ろから、声をかけられた


「……早く行くぞ」


総司さんはそのままスッと私の横をすり抜けて行く


(総司さん、怒ってないの…?)


私は彼のその態度に拍子抜けしてしまった


けれどそれは、自分が悪いということを認めるということなのかもしれない

そう思ったら昨日の出来事も、すっと流せない気持ちになった




『公私混同は避けるべきだ』



(…切り替えよう、今は仕事に集中しなくちゃ)


総司さんに言われた言葉を思い出して、私は自分の頬を叩いた









≪つづく≫