続編☆白金総司


第5話:旧知の仲⑤





「これは申し遅れました」


その男性は花のような笑みを浮かべ、名詞を取り出すと私に差し出した


「株式会社 REFLOW の代表取締役社長、花代 幸恭(はなしろ ゆきたか)と申します」


恭しく頭を下げながら差し出され、慌てて両手を差し出す


「………」


ぶすっとした顔の総司さんが、それをパッと片手で奪い取った


「あれ、取られちゃった」


「普通、俺から渡すだろう」


「別に…いいじゃない、あいにく、俺たちは旧知の仲だし…」


「……そうだな」


(あれ……?)


花代さんと話していくうちに、総司さんの雰囲気が冷たいものになってきた

なんだか、怒っているような感じがした


「それより、ねえ? あれから、白金とはどうだったの?」


「えっ!?」


「……どうもこうも、この通りだ」


「へえ、ちゃんと仲直りができたわけだ、よかったね」


「も、もしかして……」

「……私が、総司さんの妻だって事…」


「うん、知ってたよ、…初めは確信が持てなかったけどね」

「それに…君、途中で『総司さん』とか言ってたし…」


彼はクスクス笑いながら私の手を取った


「白金のお姫様…」

「君の名前を、君の口から聞かせてもらえないかな?」


突然手を取られて焦っていると、総司さんが、花代さんの手をパシッと振り払った


「……触るな」


総司さんは怒った表情を隠そうともせずに、じろりと花代さんを睨んでいた


「あはっ、ごめんごめん……」


花代さんはすぐに謝ったけど、悪びれた様子はなく、さっきとかわらず、ニコニコしていた

それが総司さんの癇に障ったのか、総司さんはますます表情を険しくさせた


「……で、別に用はないんだろう」


「そうだね……君には、ね」


そう言った花代さんの双眸すっと細められて、柔和な雰囲気が少しだけ鋭くなった


(……なんだろう?)


私はその言葉に、何か含みがあるような気がして……

違和感が胸を掠めた



×  ×  ×  ×



「総司と花代じゃないか…」

「総司はともかく、花代も来てたのか……ま、当然っちゃ当然か」


「有馬?」

「うわ、まさか君までいるとは思わなかったよ」


「…有馬さんともお知り合いなんですか…?」


「……大学の同級生だ」


「えっ?」


「俺も総司も花代もな」

「マリアちゃん、居心地悪かっただろう?」


有馬さんが、告げ口でもするかのように私の耳元に顔を寄せた


「総司と花代、感じ悪かったんじゃないか?」


「聞こえてるぞ」


有馬さんの言葉を否定できずに黙っていると、どこか楽しそうな有馬さんが言葉を続けた


「こいついら、仲悪いんだよ」


「ちょっとはオブラートに包んでよ、ずいぶんと聞こえが悪いじゃないか」


「おい志信、わざわざそんな話をマリアにするなよ」


「だって、事実だろう?」


「………」


否定も肯定もしないまま、総司さんはムッとした顔で黙り込んだ


「こいつら、ずっとライバル同士だったんだよ」

「主席の競い合い、毎回僅差でどちらかが負けて…その度に俺は、こいつらを宥めるのに大変だったんだ」


「……そうだったんですか…」

(総司さんが、そんなふうに誰かと競い合うところなんて、全く想像ができない…)


「じゃあ、そろそろ僕は失礼するよ」

「ここで、知人と話をしていたって意味ないからね…」


「また今度、時間あったら飲みに行こうぜ」


「そうだね、じゃあ名詞あげるからいつでも連絡してよ」


「おう」


「それと、君も…」


名詞をすっと差し出されて、両手で受け取る


「そこの怖い顔をした旦那さんと喧嘩したら、いつでも話しを聞いてあげるからね」


「花代……」


「怒られる前に退散するね、…あ、白金、君は連絡してくれなくていいから」


「死んでもするか」


(…こんな総司さん、初めて見た……)


花代さんは、総司さんに笑顔で言葉を投げつけ、すっと訝しげに片眉を落とすと、総司さんの耳元に唇を寄せた


「じゃあ…」


パッと体を離して、表情を一転させると、笑顔を浮かべて人混みの中に消えていった


「総司さん……?」


耳打ちした内容は聞こえなかったけど、総司さんは彼の言葉を聞いたあと、眉間にさらに深いシワを刻み込んで、何か思案するように顎に手を当てていた


「いや……なんでもない」


そう言うと有馬さんへ視線を向け、視線を受けた有馬さんは、静かな表情を湛えたまま、首を縦に動かしていた








≪つづく≫






「イケない契約結婚」


白金総司(続編)




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