続編☆白金総司


第4話:幸せとは⑥




「何に使うんでしょう? これ…」


「…さあな」


二人でお店の中を、ゆっくりと回って歩く

なかには用途が全く分からないようなものがたくさんあって、総司さんと私は、時折立ち止まっては顔を見合わせていた


「なんだか…腹が減ってくるな…」


「お昼、あんなに食べてたじゃないですか?」


「マリアの手料理が食べたい」


総司さんはもう、頭の中が夜ご飯のことでいっぱいなのか、そわそわしているように見えた


「何が食べたいんですか?」


「…特にこれといってないな、お前が作ったものは何でも美味いからな」


(総司さん…そんなふうに言ってくれるなんて…嬉しい…)

「…でも実は、献立考えるのも、結構大変だったりするんですよ」


「そう言われてもな…」


総司さんはじっと見ていたフライパンを戻して、私の手を繋いだまま外に出た



「…何がいいか、思いつきましたか?」


二人の足はいつの間にか同じ方向に向って歩いていて、たぶん、総司さんも私もこれからどこに行くのか分かっている


「本当になんでもいいんだ、お前が作ってくれるものなら……マリアの料理だったらなんでもいい」


(総司さん……ズルイ、そんなふうに言うなんて…)


「おい……顔…なんだか赤いぞ」


「もう総司さんが、そういうことばかり言うからです」


「俺のせいか?」


「そうです!」


「はは、それは悪かったな」



×  ×  ×  ×



「じゃあ、ハンバーグ……とかどうですか?」


「ああ、それでいい」


「本当に何でもいいんですね」


「だから、さっきも言っただろ」



×  ×  ×  ×



「ハンバーグといったら材料は……」

「まず、肉だろうーー」


ちょうどお肉のコーナーを通りかかって、総司さんが塊のお肉を手に取った


「え!」

「…ひき肉にするところから…ですか?」


「あ、いや……すぐそばにあったから…」


総司さんは、塊のお肉を手放して、すぐ隣にあったひき肉を手に取った


「あっ、こっちに半額のお肉が…」


「別に半額のじゃなくていいだろう?」


「同じものでお買い得商品があるなら、こっちを買うべきです」


「そういうものか?」


「お財布の口は、締めるときに締めておかないと…」

「…やっぱり総司さんって、私とは金銭感覚が違いますよね…」


(お父さんの借金をポンと返してしまうような人だから、違っていてもおかしくないけれど…)


「…そうだな」

「最近お前に事細かに注意されるから、電気をつけっぱなしにしなくなったり、すぐに物を捨てないで、どうにかできないか考えるようになった…」


「………」


「お前の節約癖がうつったらしい」


総司さんは、真っ白な紙も隅っこに走り書きをしただけで、捨ててしまうことがよくあった…

他にも、トイレやお風呂、テレビの電源や部屋の電気はつけっぱなしだったり…


「いい事じゃないですか、あのままの総司さんだったら、もったいないお化けがでちゃいますから…」


「何だよ、それ?」


彼はクスクスと、目を細め笑った


「総司さんは、言われたことありませんか?」


「聞いたこともなければ、見たこともないな」


「まあ、私も見たことはないですけど…」


私たちは顔を見合わせると、どちらからともなく笑った



そして、付け合せの材料を選んでいると


「……? 総司さん?」


ふと、隣に総司さんがいないことに気づいた

振り返ると、彼は少し離れたところをじっと見つめていた


「どうしたんですか?」


「いや……」


彼の視線の先を追ってみると、おつかいなのか、小さな子供がカートを押していた


「偉いな…」


総司さんは、とても優しい笑みを浮かべていた


「俺は…どちらかというと、箱入り息子だったから……小さい頃にああやって、一人で買い物に来るなんてことはなかった」


総司さんは生まれた時から、白金グループの後継者の一人だった

幼い頃から大切に育てられていたはずだし、確かにああやっておつかいに出されることなんてなかっただろう…


「総司さんが小さい頃にできなかったこと、これからたくさん一緒にやりましょう」


総司さんが振り返る


「公園や遊園地にも行きましょう?」


小さな頃にみんなが当たり前のようにやっていたこと、総司さんはきっと、そのほとんどを体験せずに大人になってしまっている


「今からでも遅くないですから…大人になってからでも楽しめますよ!」


「……そうだな」

「まあ、公園ではマリア、お前一人で遊んでくれよ」


「えっ! どうしてですか?」


「さすがにこの歳で…ブランコや滑り台はないだろう」


「そんなことありませんよ、…少し恥ずかしいかも知れないですけど……この歳だから楽しめるかも知れないですよ?」


そんな会話をしていると、ふいに何かがぶつかる音がした




「―――マリア!」


ガラリ、と何かが崩れて足元に落ちる


「……え?」


足元に転がったのは缶詰だった

振り向くと、積み上げられた缶詰が、私に向って落ちてくるところだった








≪第5話へつづく≫






「イケない契約結婚」


白金総司(続編)



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