ため息の向こうには…⑤





エレベーターから出ると遼一さんは、私の手をとり一番奥のドアにむかって進んで行った




(ピンポ~ン♪♪)



『廣瀬様、お待ちしておりました』


玄関のドアが開くと、一人の男性が中から出てきた


「すみません、こんな時間に…」


遼一さんは、その男性に軽く頭を下げる


「いえいえ廣瀬様、とんでもございません。こちらこそ、この度ははどうもありがとうございました」

「こちらがお部屋の鍵になりますので、ごゆっくりどうぞ…」


その男性はそう言って遼一さんに鍵を手渡すと、丁寧にお辞儀をし、その場を去って行った


「………?」


私はそのやり取りを、ただ訳がわからず…その場に固まったまま…見つめていた




「ほら、マリア… そんなとこにつっ立ってないで早く入れよ」


「あ…はい…」


遼一さんに促されるままに、玄関を入ると中へと進んだ




リビングに入ると、そこには…


(…す、すごい……!!)


広いリビングの窓一面に、さっきエレベーターで見たそれとは比べ物にならないほどの眩い夜景が広がっていた


宝石箱をひっくり返したような眩いネオンの光…

宙に浮いているような不思議な感覚の中…

ここだけ時間が止まってしまったような錯覚におちいる…


私はしばらくの間、動けないまま…その光景をじっと見つめていた



どれくらい…じっとしたままでいたんだろう…



私はハっと我に返り辺りを見回すと、少し離れたところの壁にもたれて、遼一さんがじっとこっちを見ていた


(…ずっと見られてたのかな…なんだか恥ずかしい…な…)


(見ただけで質の良い物とわかるソファやテーブルが配置されてはあるが、全く生活感のない部屋…

人が住んでいる気配もないし…)

「遼一さん、あの、この部屋って…?」


「…気に入ったか?」


「え?」


(あっ、そういえばエレベーターの中でも、同じこと言ってたけど…? え? ま、まさか…?)


「…気に入ったんだな、マリア…」


遼一さんは後ろから私を抱きしめると、耳元で優しく囁いた…


「…りょ、遼一さん… この部屋は、だ、誰の…?」




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「…気に入ったか?」


今 私は、この言葉を…この言葉の意味に…ようやく気づいたかもしれない…








≪⑥につづく≫