HAPPY END


~第12話:初恋フォーエバー…①~  by 白金総司





「なんか面倒なことになってるな」


突然現れた志信さんの存在を、私はどう受け止めていいのかわからなかった

この人たちと一緒に総司さんを追い込むつもりか、それとも…


「志信……」


「おまえは本当に…だからワンマンはよくないって言ってたんだよ」


「……そうだな」


「志信様、なぜここに?」


「なんか、俺が知らないところで面白そうなことが起きてるって聞いてな…」

「これだけぞろぞろ、重役ばっかりが会社に入れば、嫌でも目につくだろう」



総司さんは、じっと有馬さんを見つめていた

その表情には、一点の曇りもない


(総司さん…有馬さんのこと、信じてるの?)


有馬さんもまた、総司さんを見る

そしてその瞳は、総司さんのものと同じだった



「これ、何だと思う?」


突然、有馬さんが書類とレコーダーのようなものを取り出す

チラリとそれを目にした真澄さんや他の人たちの顔色が変わった



「おまえ……」


「こっちの書類は、あんたが村瀬冬太を雇った時の写真と報告書」


「これは、俺に後継者候補の話を持ちかけてきた時の、あんたらとの会話と、あと、さっきまでこの部屋で繰り広げられていた会話も完全に撮れてるから…」


「なんだって!?」


「こういうのは、法律的にはなんの証拠にもならないが、あんたたちの祖父さんに持っていったらどうなるだろうな?」



その場の空気が、ガラリと変わった



真澄さんも冬太くんも、そして他の人たちも……

これまでの立場が逆転してしまったことを、はっきりと悟ったようだ



「お前のことだから、外で誰かを待たせているんだろう?」

「お前から連絡がなければ警察に……とでも、保険をかけているのか?」


「残念ながら、だてに夜の世界で生きてきたわけじゃない、サツは嫌いなんだ」

「だが、この報告書や会話の原本は、俺に何かあればお前の祖父さんに渡るようにしてある」


「ここでの会話はこれにしか入ってないが、まあ、祖父さんを納得させるには充分だろ」



「有馬さんは…総司さんの味方だったんですね」


「俺は最初から、こいつの敵になるつもりなんてなかったからな」

「おまえだって、ちゃんとわかってただろ?」


「ああ……俺たちが異父兄弟だとわかっても、それ以前に親友だ」



総司さんが、心からの笑顔を有馬さんに向ける



「…ったく、お前はもうちょっとうまく立ち回れよな」

「仕事に関しては、鬼になりすぎだ だから敵も増える」


「ああ……そうだな」


「ま、こういうアドバイスをするには、俺はもうお役ごめんだろうけどな」


「え?」


「マリアちゃんの言うことなら、なんでも聞くだろう、総司は」


「ど、どうしてですか?」


「そりゃ、総司にとってマリアちゃんは、ずっと探していた……」


「志信!」


「あー、悪い悪い、これはお前から言ってあげなきゃダメだな」

「さて、その前に一仕事だろ?」


「ああ」


2人が、真澄さんや他の人たちに向き合う



「悪いが、俺は白金グループの後継者になるつもりはない」

「ガラでもねえしな」


「お前たちがこれまでしてきたことは、志信が言ったとおり、こいつの手元にある」

「どうする? 俺は別に、後継者が決まるまで正々堂々と勝負を続けてかまわないが」


「くっ・・・・」


「志信様、なぜ・・・」


「何がだ?」


「白金グループのトップに立てば、全てが手にはいるのに」


「俺は自分の手で手に入れたものしか信じない」

「それに、こっちの世界を何も知らない俺ならいいように操れる、と思われるのはまっぴらだ」


(有馬さん、気づいてたんだ……自分が利用されているってこと)


「俺は……」


やがて、真澄さんがゆっくりと口を開く

その返事を、私たちは待った










イケない契約結婚   (C)Arithmetic