~第7話:誘拐、夫婦の絆③~  by 白金総司





翌日、定時で仕事を終えて家に帰ると、すでに総司さんが戻って来ていた


「あっ、総司さん、早いですね?」


「ああ……」


「待っててくださいね、すぐご飯支度しますか…ら…」


「マリア!」


ソファに座って私を見ていた総司さんが、低い声で私を呼んだ


「こっちに来い」


「? はい……」


不穏なものを感じ、心臓がドキリと鳴る

ゆっくりと総司さんの前に立つと、テーブルの上に写真が置いてあるのがわかった


「写真……?」


「これはどういうことだ?」


一枚を手に取ってみると、そこには私と……冬太くんが写し出されていた


「冬太くん……?」


もう一枚見ると、冬太くんに引き寄せられて頬にキスされているところだった

それを見た瞬間、サーッと全身から血の気が引いていく


「どうして、これ……」


「会社に送りつけられてきた」


「え!?」


「幸い俺宛てだったから、俺以外は誰も見ていないが…」

「…どういうことか説明しろ」



①こんなのデタラメ

②助けてもらったお礼に(5UP)

③誤解です



「これは昨日、残業した帰りにナンパされて…」


「そんなことは聞いてないぞ」


「心配かけると思って、黙ってたんです…」

「その時、冬太くんが助けてくれて、そのお礼にって無理やり…」


(どうしよう、総司さん、完全に誤解してる)

(だけどおかしい…どうしてこんなタイミングよく写真に撮れるの?)


「…お前を信じた俺がバカだったということか…」

「結局お前のほうが、俺との結婚を『契約』としか考えていなかったんだな」


「…契約だけで…契約だけで結婚した人と、あんなことなんてしません!」

「私…私、総司さんのこと…」


「…もういい」


ソファから立ち上がり、総司さんが私に背を向ける

話も聞いてくれないことに、私はただ立ち尽くすしかなかった


「…やっぱり、総司さんは私のこと、信じてはくれないんですね……」


「…何?」


「そうですよね…借金を返済してもらうかわりに結婚した人間の言葉なんて…私が総司さんに身体を許したことも……全てお金のためだと思われても仕方のないこと…」


それ以上言葉にすると涙がこぼれそうだったので、口を噤んだ

総司さんから顔が見えないように、玄関へ向かう


「おい!」


「すみません…ちょっと外の空気、吸ってきます…」


総司さんの返事を聞く前に、私は部屋を飛び出した




とぼとぼと近くの公園まで歩く間、私は涙を拭うこともせずただ泣き続けた


(総司さんと、近づけたと思ったのに……やっぱり、最初からこんな結婚、無理があったんだ…)


(それにしても、あの写真…上手く撮れすぎてる…)

(もしかしたら、総司さんの後継者争いに、関わっていることなのかもしれない…)


だけど今は……総司さんが信じてくれなかったことが、何よりも悲しかった


「どうすればいいんだろう……」

「もうあきらめて、形だけの夫婦としてやっていくしかないのかな…」


それとも、総司さんが後継者に決まったら、離婚した方がいいのかも知れない…

もともとその条件を満たすために私と結婚したんだし…


後継者問題さえ片付けば、私が妻でいる必要もないはずだ


「離婚した場合……ちゃんと借金は返さなきゃ…」


そう呟きながら、公園に足を踏み入れようとした瞬間ーー

突然、後ろから両腕と口を押さえられた


「!?」


「騒ぐな! 一緒に来てもらう」


(何…誰!?)


口元を覆う布から、アルコールのようなにおいがして…

意識が遠のき…全身の力が抜けていくのを感じた…





(第8話につづく…)






イケない契約結婚   (C)Arithmetic