~第7話:誘拐、夫婦の絆①~ by 白金総司
強盗の一件がきっかけとなり、私のアパートは早々に引き払うことになった
「やっぱり、誰も住んでいない部屋があるのって危ないですね」
「引き払うつもりではいたが、色々あって遅くなっていたからな、ちょうどよかった」
(これでもう、このマンション以外、私の帰るところはなくなった…)
(だけど総司さんが言ったように、区切りをつけるのにちょうどよかったのかも…)
「私も、なんだかスッキリしました」
「何がだ?」
「あの部屋があると、心のどこかでこのマンションを『本当の家じゃない』って思ってる自分もいて、だけどあの部屋がなくなったら、ここが本当の家だと思えるようになりました」
「俺と結婚したときから、お前の帰る場所はここだけだ」
微笑んでくれる総司さんの言葉に、胸が温かくなった
その日、残業をしてしまった私は、遅い時間に会社を出た
その私を追いかけるようにして、沢渡くんが会社から出てくる
「○○…この間のことだけど…」
「沢渡くん…」
あれから、会社で私と総司さんのことが噂されるようなことはなかった
沢渡くんは他言せず、自分の中にしまっておいてくれている
「ありがとう…総司さんのこと、黙っててくれて…」
「お前が PLATINUM との契約を取ってきたのって…」
「それには色々と複雑な事情があるんだけど…でも、ゴメンね」
「私、総司さんと夫婦としてやっていくって決めたから…」
「あいつのこと、好きなのか?」
「…わからない まだ…」
「まだ?」
「ちょっと順番が違ってよく知らないうちに結婚したから、だけど、総司さんを見ていると愛しく思えたり、優しくされると嬉しい…」
「これが『好き』っていう感情でないとしたら…」
「…それに代わる言葉を、私は知らない」
「……それ、結局好きってことだろ?」
沢渡くんの言葉に、私は曖昧に微笑んだ
「…心配してくれてありがとう」
それだけ告げて、沢渡くんに背を向けて歩き出す
入社以来、ずっと私を気にかけてくれた沢渡君には感謝してるけど……
これは自分と総司さんの問題だから、誰かに頼るわけにはいかなかった
「それにしても遅くなっちゃったな…」
「総司さんには連絡しておいたけど…今からご飯支度したら、食べるのがかなり遅くな…」
「おねーさん!」
「え?」
振り返ると、見るからに酔っ払いというか…
サラリーマン風の男性が2人、私の両隣を挟むようにしてきた
(うわ、お酒くさい…!)
「こんな時間に一人でどこ行くのぉ?」
「よかったら一緒に飲もうよ~ おごっちゃうよ~」
「い、いえ、結構です」
「そんなこと言わないでさあ~」
①恋人がいますから
②結婚してますから(5UP)
③早く家に帰らないと
「すみません、私結婚してますから!」
「まったまた~、指輪してないでしょ」
結婚はしたものの、確かに指輪はもらっていない
契約だからそんなものかと思っていたけど、まさかこんなところで仇になるとは思わなかった
「ほ、本当に…仕事の関係上、してないだけです」
「いいからいいから!ほら、向こうにいい店あるんだよ」
「時間あるでしょ? 行こう行こう」
「離してください!」
片方の男性に腕をつかまれて、引っ張られるようにして連れて行かれる
大声で助けを呼ぼうと思ったとき、
グイっと反対側に引っ張られて、男性の拘束が解けた
イケない契約結婚 (C)Arithmetic