~第6話:喧嘩とピンチ①~  by 白金総司













沢渡くんとのことを疑われ、悲しい気持ちで私は以前暮らしていたアパートへ向った




「私の行動は総司さんに跳ね返ってくる…」


「それって……後継者争いに響くから…目立つ行動は控えろ……ってことだよね」




一緒に出かけたりして、少しずつ距離は近づいているものだと思っていた


脅迫から始まった結婚だったけど…「奴隷」という響きから最初に想像していたものとは全然違った




(だから、勘違いしちゃったのかな…)


(最初から、総司さんにとって私はやっぱり「奴隷」で、「契約」で、「道具」でしかなかったのかもしれない…)





重い足取りで歩いていると、やがて頬に冷たいものが当たった




「雨だ……さっきまで晴れてたのに…」




まるで、私の気持ちに呼応するかのように、徐々に降りは激しくなる


遠くに見えてきたアパートに向かって、私は走り出した






めぼしい荷物は運び出してもらったけど、部屋はまだ引き払っていなかった


咄嗟に持って出た小さなバッグにいつも入れておいた部屋の鍵を取り出し、鍵穴に差し込む




(……あれ? 回らない…鍵、かかってないってこと?)




最後に荷物を運び出した時には私も立ち合い、部屋を出るとき、確かにかけたと思ったのに…


疑問に思いながらも、私はノブを回して中へ入った




「最後に来たの、いつだっけ…」




部屋の中は色々なものが散乱していて、とにかく慌てて引っ越した、という様子がわかありさまになっていた


突然引っ越すことになり、必要なものを箱に詰めて あとは片付けないまま部屋を出た記憶がある


見慣れたソファに腰をかけると、少しだけ気持ちが落ち着いてきた




「なんでこんなにショックを受けてるんだう……」




総司さんとの結婚が契約でしかなかったことは、最初にわかっていたことだった


そこに愛がないことも……


愛が芽生えることがないことも承知で 婚姻届にサインをしたはずだったのに…




「なのに、それを突きつけられてこんなに落ち込んでる自分が一番わからない…」




深くため息をついた時、ギシっと床が鳴った




人の気配に振り向こうとした、その時…




「動くな!」




首筋に冷たいものが押し当てられた




「!?」




「おまえ、この部屋の人間か?」





「だ、誰…」





「答えろ!」





「そ、そうです…」




感情のない、冷たい声だった


腕を掴んで立ち上がらされ、ようやく背後の人の顔を診ることができる




サングラスにマスク…一目で、強盗だとわかる出で立ちだった




「金目のものがほとんどない、どういうことだ?」





「ひ、引っ越して……」





「ちっ…」




男はマスクとサングラスを外すと、私を乱暴にソファに押し倒した


抵抗しようとしても、両手を押さえつけられていて、抗うことができない…




「金がないなら、おまえで楽しませてもらうか…」





「や、やめて…」





「引っ越した後の部屋なら、誰も来ないだろ?大声出したりしたら、殺すからな」




恐怖で声が出ない


誰も来るわけがない


私のことを道具だと思っている総司さんが、探しに来てくれるはずもない




(総司さん……総司さん!)
















イケない契約結婚  (C)Arithmetic