川釣り師の目の敵といえば、護岸工事やダムだ。護岸工事による川の直線化、川底のコンクリート固め、頭首工、砂防ダム、などなどの人工物は、河川環境の悪化をもたらし、魚の減少につながる。

 

 

特に、砂防ダムは視覚的にもインパクトが強く、かつほとんどの河川に見られることから、かなり嫌悪の的になっていると思う。砂防ダムは、魚の往来を不可能にするため、特に海からの遡上魚には大打撃だ。たとえ魚道があっても、流木で塞がったり流れの筋が逸れていたり等、無駄な魚道になっているものも多い。

 

とはいえ、これはあくまで川釣り師視点の話であって、もちろん自然破壊は以ての外ではあるものの、人間生活のために必要なものであれば仕方のないものなのではないか?という疑問が沸く。

 

そもそも、なんで砂防ダムが作られるのか?という話だが、もちろん災害を防ぐためだ。

 

 

その名の通り、土砂が流れるのを防止する砂防ダムは、豪雨発生による土石流などをせき止める効果があるとされている。たとえ砂防ダムが砂で満杯になろうとも、砂防ダム上流の河川勾配は緩やかになるため、下流へ土石流や流木が流れていくことの防止にはなる。

 

砂防ダムは土石流を防止するもので、治水ダムは洪水を防止するもの。おそらくこれは世間一般の砂防ダムもしくはダムの認識だと思う。がしかし、これには重大な落とし穴がある事を知っている人は少ない。

 

とはいえ、まずはシンプルに考えてほしい。川は、上流から下流に水が流れていく。水が流れれば、もちろん岩や砂も流れていく。それが河岸や河床を作り、維持している。ここが地味に実感が湧きづらいかもしれない。とはいえ、それこそ大雨で川が増水した時を思い浮かべてもらえれば簡単だ。水が茶色になっているのは、土砂が流れているからだ。

 

と、砂防ダムは何も災害時だけに土砂を流さないわけではない。常時砂をせき止めている。それゆえに先述のように砂が砂防ダムの上に溜まる。で、砂が下流に流れなくなると、下流に砂が堆積しない。となると、河岸や河床が維持できない。結果、砂防ダムの下流では、河床が削られ、河岸が削られていく。そうなると、どんどん川が流れていく位置は下がっていく。谷も深くなっていく。いわゆる河床低下という現象だ。

 

 

パっと思い浮かばないかもしれないが、河岸が削られる、という事は、その河岸にあるものも崩れる。河岸にあって崩れると困るものは、人工物だ。せっかく災害防止のために工事した護岸も、川に沿って走る道路も、削られた河岸に巻き込まれて崩れる。可笑しいのは、河岸が崩れるのを「川のせい」にするところだ。砂防ダム下流で発生した「川の悪行」を止めるため、人間がさらに川に手を加える。それが無駄な事もしくは更なる被害を呼ぶ事になるのに。結果、砂防ダムや河川改修は1つに収まらず、最終的に川がコンクリート水路になるまで続けられる。

 

 

これ、実際に川釣りをしている人はわかると思うが、川がどんどんいじられていくのは決して珍しい話ではない。砂防ダムから下流は、決して安全ではないのだ。しかも豪雨以前の話で。そんな中で豪雨が来たら、それこそ大規模ながけ崩れが発生するかもしれない。砂防ダムによる豪雨被害があまり報じられていないもしくは発生していないのは、豪雨が来る前にそもそも河岸が崩れるところまで崩れてしまっているから?

 

砂防ダムについて説明したHPはいろいろとあるが、語られているのはたいてい砂防ダムから上流の話だ。そして上流で土石流をせき止めてくれれば大丈夫、と多くの人が考えてしまう。下流の事については何も説明していないので、ウソも言っていないし間違ったことも言っていない。そもそも言っていないのだから。

 

とはいえ、ある意味それも確信犯なのだろう。治水担当のお役人さんが書いた論文がネットに転がっていたが、「河床低下は洪水防止に効果がある」と言っている。おそらく、これはこの人だけじゃなく、お役人さんの共通の考え方なのだと思う。

 

http://www.rfc.or.jp/pdf/vol_38/P_09.pdf

 

たいした根拠もなく、なんかもう、ここまで来ると魚類の保護とか以前のことを伝える必要がある。「何様のつもりだ」と。

 

ただ、疑問なのは、百歩譲って砂防ダムが防災目的だとして、じゃあ人家がなかったり下流に治水ダムがあったりする川に砂防ダムがあるのはなんで?という事だ。

 

例えば十勝地方の札内川は、上流に治水ダムである札内川ダムがある。が、その下流にも大小さまざまな砂防ダムがあり、はたまた札内川ダムの上流にも無数の砂防ダムが存在する。まぁ、そこは日高横断道路の名残なのだろうが。ちなみに、そんな札内川は2016年に十勝地方を襲った豪雨により堤防が決壊している。ダム意味ないやんけ。もちろん、ダムがあったからこそ被害を抑えることができたのかもしれないが、じゃあダムがなかったら本当にもっと被害が拡大していたのか?という疑問もある。

 

砂防ダムは基本的には洪水を防止するものではない。で、治水ダムがあっても洪水が発生する。挙句、2016年に発生した南富良野町の洪水は、すぐ下流部のかなやま湖の湖水が逆流したために発生したという説もある。かなやま湖の緊急放流の前に南富良野市街は浸水している。そして、空知川の堤防が決壊した2個所は、河岸の河畔林が伐採され護岸工事された場所だ。かえって河川改修や治水ダムが洪水を誘発している…?なのに、大水の発生河川であるルオマンソラプチ川では、川のいたるところで砂防ダムが建設された。

 

あと単純な話として、土石流が発生しないために砂防ダムが建設されるが、そもそも川の水が溢れなければ、土石流や流木は川をそのまま流れていき、流域の街には被害が出ないような気もするが…。「橋とかに引っかかって壊れるじゃん!」と言うが、じゃあその橋の橋脚部の川底を豪雨時だけでなく日頃から下げて脆くしているのは砂防ダムのせいだったりする。

 

砂防ダムの被害として河床低下を述べてきたが、自然保護という観点と繋がるのが、漁業被害だ。砂防ダムができると、先述の通りサケマスの遡上魚にとっては大打撃だ。砂防ダムがあると、産卵床が泥で埋まったり、そもそも産卵床に適した場所が少なくなる。それこそ北海道は漁業に力を入れているはずなのに、なぜ悪影響となる砂防ダムを造るのか?百歩譲って防災のためならわかる。だが、人家もあまりなく道路も離れているような川に、なぜ砂防ダムを造るのか?

 

パっと思い浮かんだのは積丹の沖村川だ。河口近くにわずかに集落がある川だが、規模は小さく、氾濫するような川ではないように思える。道路も河口に国道が通っているくらいだ。そして、高さは低いが無数の堰堤があるにもかかわらず、比較的新しい巨大な砂防ダムがある。

 

あと、北海道には保護水面といって、簡単に言えば資源保護のため水生生物の採捕を禁止している川がある。なのに、そんな保護水面の多くに砂防ダムがある。本記事の一番最初に貼った動画の信砂川も、保護水面河川だ。魚道はあるものの、そこまでの道のりは岩盤むき出しの浅瀬が続く。魚道の場所も悪い。砂防ダムから流れ出した泥によって水質も悪い。あからさまに砂防ダムの悪影響が出ている川だ。

下流部は田園地帯だが、人家は少なく、砂防ダムのある上流部は道道が川のそばを走っているが、中流部以降は道道は川からかなり離れた位置を走っている。で、田園地帯があるので、頭首工(水を引く施設で、低い堰堤)も何か所もある。そんな人間の手が加わりまくって環境が良いとは言えない川が保護水面なのだ。

 

道南の松前町にも多くの保護水面河川があり、どれにも砂防ダムがある。しかもその下流は人家も何もない。河口部の崖の上に道路が走っているだけだ。

 

砂防ダムに対して、お役人さんはいいとして、漁業関係者やぎょれんの方たちはどういう印象なのだろうか?今度漁師さんとかに聞いてみようかなぁ。

 

漁業といえば、砂防ダムは海にも悪影響を及ぼす。海を豊かにするために植樹をする、なんて小学校か中学校で習ったけど、まさにその通りで、魚だけでなく、海藻や改装をエサにするウニ等の生物も住めなくなる。砂防ダムは土砂はせき止めるが、シルトという微細な泥は流す。結果、砂防ダムから下流および河口沿岸部は茶色の水になる。有名なのは沙流川だろうか。いろいろな意味で悪名高い二風谷ダムの影響で、沙流川は常に泥水を海に流している。二風谷ダムは治水が主な目的ではあるが、泥をため込みすぎて治水量はかなり低下しているようだ。

 

とはいえ、砂防ダムによる河床低下や河岸の崩落、砂のため込み等が発生していない川もある。パっと思いついたのが富良野と芦別の境目を流れる尻岸馬内川だ。空知川の支流で、かなり深い渓谷の底を流れる川に、大きな砂防ダムが何基もある。この川の各砂防ダムはあまり砂が溜まっていない。川底もそこまで岩盤が露出していないように思う。とはいえ、おそらくかなりな深い谷になったのは、砂防ダムによる河床低下と河岸崩壊によるものと思われる。昔の川を知らないので何とも言えないが。

 

砂を貯めないもしくは貯めるスペースのない砂防ダムは、そもそも意味がないのでは?それなのに砂防ダムを造った意味がわからない。「とりあえず道路の近くを流れてる川は危ないから造っちゃえ」という発想なのかもしれない。同川は芦別と富良野をつなぐ道道が並走している。

 

結局のところ、自分は砂防ダムを「ニューディール政策」だと思っている。昔、世界史で習ったアレだ。工事業者やお役人さんのお金を動かすための公共事業であって、防災という観点は低いように思える。そう思えば、上記の「やってもやっても壊れる工事」にも納得がいく。いやいかないけど。

 

もしそうであるならば、砂防ダムを改良するのも公共事業になるのではないか?最近、保護水面であるせたな町の須築川の砂防ダムがスリット化され、遡上魚の往来が可能となった。特にスリット化による被害は確認されていないし、それどころか現時点では河川環境と海岸の回復という良い結果につながっている。そもそも人間が手を加えずとも、川は自身で安定を保とうとする。かえってそれに手を加えると、自身で安定が保てなくなる。なんというか、よく考えてみれば当たり前の話だとは思うんだが。

 

とはいえ、積丹の珊内川は、また新たに砂防ダムを造る予定らしい。現地を見ていないので進行状況や現状はわからないが、理由としては「渓流の荒廃」が挙げられている。2,3年前に行ったときは特にそんな印象感じなかったが…。もし荒廃していたとして、その原因は珊内川の下流に無数にある落差工、砂防ダムだと思うのだが。珊内川は保護水面ではないものの、サクラマスのふ化場がある川だ。一応スリット式の流木捕捉に特化した砂防ダムにするらしいが、果たして意味があるのだろうか。

 

(とはいえ、珊内川は釣り人の存在も魚の減少の大きな原因でもあると思うが…)

 

こう、人にも自然にも優しい手段はないものなのだろうか…?そして、素人でもわかりそうな無駄遣いが、なぜ続いているのだろうか…?それが社会、という事なんだろうか。