天の声が響く。この間は何だろう。でも意味の無いことだろう。そんな予感がした。毎度毎度、御苦労なこって。
「そんな目で見られてもこまるんだけど。だって君の目は哀れみの目じゃないか。哀れみが欲しいんじゃないんだよ。友達が欲しいんだ。」天使は嘆くように言った。私の目線がバレていたか…。私は優越感に浸るのを辞めた。「まぁ、貴方の言うことがわからなくもないけどね。そりゃ、誰だって責務に押しつぶされそうになったら嫌だもの。友達とか欲しくなる気持ちもわかるよ。」私は親切心から言った。「ふん、偉そうに!なにを判った気でいるんだい?本当の気持ちなんてちっとも分からない癖に!」天使は蔑むように鼻で笑った。「もう誰が天使だか分からないよ…。私が友達じゃだめかな。私はね、純粋に水を掬うように貴方を救いたいと思ったんだよ。きっかけは分からないけど。」私の言葉はもう引っ込みがつかなくなった。実際には適当に言ったことなのだ。でも天使の言い分を認めたくなかった。天使が哀れなんていう事実、認めるわけにはいかない!こう思った。「そんなことあるもんか!」天使は完全に捻くれていた。「ぼくは、全てもう、忘れたいんだ。天使という職務を担ってきて散々人間のどす黒い所を見てきた。彼らは、ぼくたちに命乞いするのさ。ぼくはなんにも出来ないでいる。ぼくは、人間よりも黒いのさ!人間の死ぬ瞬間を間近で見て、喜ぶ姿を見て、泣く姿を見て、それは職務の内でしかないんだからさ。そうやって安心してるんだよ。ぼくが居なくなったって誰も困らないのさ。だってぼくの仕事は何人もの体制を組んで成っている。ひとりくらい休んでも仕事に支障は無いし、誰か別の奴を採用すればまた元通りだよ。それに重要な神さまでも無いし、誰も変わってることに気が付かないよ。ぼくが居なくても誰も困らない。何のために従属に自分を縛り付ける仕事をしなくちゃならないのかい?ぼくには分からないね。」天使は仕事で疲れたサラリーマンのように項垂れた。
赤月はさまざまな美夜を思い出しながら、家に帰った。玄関を開け直ぐに一畳ほどのキッチンがある。その奥を進むと六畳の寝室兼ダイニング兼リビングがある。キッチンの左手には狭いお風呂が存在し、トイレはその右隣に別の部屋として区切られていた。トイレと風呂が一緒でないことがこの部屋の良い所である。リビングにはシングルベットが置かれていて、黒い布団カバーが付いていた。その前には約高さ40cmの楕円形の白い折り畳みテーブルが置いてある。ベットの奥には収納箪笥が置かれており、その右隣には古ぼけたパソコンのある机が置かれていた。テレビは無かった。その代わりにキッチンに置くスペースの無かった電子レンジと冷蔵庫がテーブルの斜め奥に配置されており、狭苦しい印象を与えた。
続く