今度という今度は又やってくることだろう。何がって知らない自分がだよ。何も知らない自分がやって来るのさ。どこからどこまで?無限の彼方からきっと未来の果てまで。宇宙の空から雲の上まで。日常の際から雨の降る時刻まで。きっとそれはハーモニーを保っているんだ。それは純粋無垢なもので、そうでなくてはならない。透明で、無味無臭で軽くも重くも無い。飛び出しそうなほど輝いていて、消えそうなほど素晴らしい集態。何も明日死ぬってわけじゃないのに…。その声は聴こえなかった。私は焦る。波の麗らかさと合っていなかった。

 

 

 

 赤月は焦った。

 

「なに?どんな台詞なんだよ。ははは。言われた事ねーよ。」

「えー?そうやって笑ってるがいいさ。」

 

美夜は真っ赤になってさっき言った言葉を取り消そうともせず、否定もしないで笑っていた。そこには青春の輝きが在り、美夜はとても美しかった。しかしその美しさに気づいてはいたが、赤月は何を言うでも無くただ満更でも無い表情を浮かべるだけだったのである。

 実際の事の起こる時がやって来るのを避けている感じだった。何時までも友達の様な関係で居たい。そうやって曖昧さを解消するのを先延ばしにしていたかった。しかし、今まで会った人の中で唯一今の関係に満足していなかった。たったの数十分しか話していないのに!

 

「いや、試さないよ?」

 

赤月は美夜から何か言われる前にその可能性を封印した。

 

「そうなの?案外堅実というかなんだか。」

「意外?」

「うーん。男の人だったらああ言われて悪い気はしないもんだと思ってたけど。」

「あゝ。悪い気はしないさ。ただそのまま思い通りになるわけにはいかなくてね。」

 

赤月は半分本気の事を言った。

 

「だからまだ経験無いんだよ。」

「うるさい。その経験は『いつ』じゃなくて、『誰と、どんな風に、どんな気持ちで』が重要だろ。」

 

熱弁を振るった赤月は自分の言ったことが多少大袈裟であり、縮こまりたい衝動に駆られた。自分が情けなくなったりもした。しかし、美夜の顔を伺いたくは無い。好きな女の前ではな!……。自分で自分の感情に『やはりな』と感じながらも驚きが隠せなかった。そうか…!好き、なのか。

 それと同時に怖くなった。自分が犯している罪はどれくらいだろう。美夜を穢してしまいそうだった。好きという感情を持ってるだけで迷惑ものなんじゃないかという気持ちに何故だかなってしまった。なにより自分が不甲斐なく、甲斐性の無い悪質な人間であるという、べたべたとしたいわれも無い感触の感情に陥ってしまった。だが、どこかで喜んでいる自分がいるのも事実だった。

 

 

 

 

続く