牧村朝子『ちっちゃいけど、伸びてるのよ。だいじね。』

ちっちゃいけど、伸びてるのよ。だいじね。

撮影：舞珍さん

眠らせておきなさい　子どもが眠っているのなら

やらせてあげなさい　子どもがやりたがるのなら

笑わせておきなさい　子どもが笑っているのなら

信じさせておきなさい　子どもが信じるのなら

行かせてあげなさい　子どもが旅立って行くのなら

誰もかもを、子どものように大事に思えるようになりたいわ。

まきむらよ。

遠くの星から、地球のひとびとを望遠鏡で覗くように、いろんな年齢・価値観・宗教・政治観・人種・性指向などなどのひとたちを見られるようになりたい。

そして、その望遠鏡の向こうに見える多様なひとの中に自分もいるのだ。という客観的な視点を常に忘れないでいたい。

自分の目というレンズを通してひとを見ると、すき・きらい、意見の合う・合わない、優れている・劣っている、みたいな判断をついしてしまう。

だからそうじゃなくて、遠くの星の望遠鏡レンズみたいに、客観的にひとを見ていたいと思うのです。そして誰もかもを、子どものように大事に思えるようになりたい。

大事な彼女とともに、やっと幸せな新婚生活を始められたこの国、フランスで

エッフェル塔前を数十万人が埋め尽くす、大規模な反同性婚デモが行われました。

ほぼ同時にフランス軍が、マリへの空爆を開始。

自衛のための軍隊だけを持つ日本に育ったわたしには、自分の住む国が他国を空爆するというのは初めての経験でした。

デモの少ない日本に育ったわたしには、自分の望む生き方を数十万人規模のデモに否定されるというのも初めての経験でした。

悲しくなんかないと思っていました。

悲しくなんかない、と思いながらいつも通りパリを歩きました。

ふと、足が止まります。

あのおじさんが、つい先日「この国に同性愛者は必要ない」って看板を持って叫んでいたのかも。

このお姉さんの弟が、つい先日、アフリカで過激派を爆撃して殺したのかも。

唇がわなわな震えました。ああ、わたしはひさしぶりに、悲しいのかもしれないなあ、と思いました。

うまくしゃべれなくなって、人と会うのが怖くなって、わたしはひたすら、反同性婚デモ関連ニュースや戦争についてのドキュメントを読んでいました。

同性愛者に対する中傷、誤解、また戦争の生々しさを、ただのカメラみたいに目を見開いて、何も考えずにひたすら読みました。

たまたま読み進めていたルワンダ虐殺生還者のドキュメントで、ツチ人の青年がフツ人に取り囲まれて殺されるシーンが出てきました。

1994年、たった19年前に起こったことです。

彼はパンツ一枚の姿で大勢のフツ人に殴られて、妹の居場所を言わなければ殺すと脅されました。大勢の人に刃を向けられながらも、彼は微笑んでこう言ったそうです。

「やってくれ！（中略）僕は君たちが気の毒だ。まるで子どもの遊びのように人を殺している。殺人は遊びじゃない。君たちは神様の怒りに触れて、代償を支払わなければならないだろう。君たちが殺した罪もない人々の血は、君たちのあとをついてくるだろう。
だけど、僕は君たちのために祈る。君たちが、自分たちのしていることの中に悪魔が宿っていることに気づき、神様に赦しを乞うように、手遅れにならないうちに」

――イマキュレー・イリバギザ「生かされて」
日本語訳・堤江実

これが彼の最後の言葉になりました。
彼を殺した人は、その後、「あの言葉が頭から離れない」と泣き続けたそうです。

眠らせておきなさい　子どもが眠っているのなら

やらせてあげなさい　子どもがやりたがるのなら

笑わせておきなさい　子どもが笑っているのなら

信じさせておきなさい　子どもが信じるのなら

行かせてあげなさい　子どもが旅立って行くのなら

――ブレーズ・サンドラール
日本語訳・筆者

誰もかもを、子どものように大事に思えるようになりたいです。

それぞれの信じる道があり、それぞれの行動に理由がある。

嫌いな人を、憎い人を、自分と意見が合わない人を、大事に思うのは、簡単なことではありません。

だって、自分自身もまた彼らと同じように子どもだから。

けんかしながら、わたしたち子どもは、成人式を迎えたって、身長がのびなくなったって、毎日少しずつ、心の身長をのばしていくのよね。

そしてわたしたち子どもは、遠くの星の望遠鏡からみたら、みんな比べる意味もないくらいに、おんなじくらいちっちゃな存在なのよね。